第10話 魔法授業

「やっちまったぜ…」


昔のボクシング漫画の最終回ように、真っ白な灰になってしまった。

あの主人公は満足げな笑みを浮かべていたような気がするが、私は単純に廃人になっただけだ。


「学園のアイドル・アーノルドにとんでもない罵声を浴びせた平民新入生」


これが話題にならないはずもなく、他のクラスからも見学者が訪れるほどだ。

私はといえば、いたたまれなくなり隅っこで壁のシミになっている振りをしていたが


「先生、このクラスに風紀を乱す人がいます。具体的には言えませんがエリー・フォレストです」

「そのエリーさんに悪口を言われました」

「そのエリーさんが窓ガラスを割って回ってました」

「そのエリーさんが裏山で魔獣と格闘していました」


と、次々に突き付けられる冤罪…いや、最初は冤罪じゃないか。

あと最後のは良いことじゃない!?

それよりこのクラスの窓ガラス、どうなってんだ!?

もうすぐ青空教室になっちゃうんじゃないの!?


「ちっ、平民風情が…窓ガラスは学年主任の承認で使用が許可される復元魔道具で元に戻るんだよ」


先生、私の心を見透かしたようなつぶやきありがとう!

意外と優しいね!!


そんなこんなでクラスのカースト最下層に沈んだ私だが、逆転の秘策がある。

今日の授業はクラス一人一人の魔法を披露するのだ。


よし、この魔法について説明しよう。

え~、面倒くさいな、とか思ったら、二段落くらいすっ飛ばして下さい。


通常、魔法は火・水・風・雷・土の大きく5種のいずれかを授かり、それも遺伝因子が強い。

なので、例えばウィッシャート家は「風」魔法を得意とし、家紋もそれっぽい感じになっている。

ただし義弟のアーノルドさんは血筋が違うので「火」を得意としている……みたいな。


その範疇に入らない魔法として、回復や補助の魔法「月」や、暗殺や探索系に特化した「影」、相手を魅了したり惑わせる「幻」、魔族だけが使えるとされる「魔」などがあるが、中でもクリフォード様の属する王族オデュッセイア家は「光」属性魔法は絶大で国を護る力を持っているとされる。

……って、まぁ、全部、教科書に書いてあった事の受け売りなんだけどね!!


そして!

この私は聖女(予定)ゆえに「神聖魔法」です!

多分!ゲームではそうだった!!

「光」と被ってんじゃない?、とか思っていたんだけれど、ちょっと違う。

なんと魔を退ける力に特化した魔法なんです!

魔族や魔獣が持つ「魔」属性の攻撃や魔法はすんごい強力らしいんだけど、「聖」の力はそれを打ち消せるのだ。

……成長すればだけど。


対魔限定魔法だけど、これ、ちょっと国家に有益じゃありませんか?

ぐへへへ、ここで神聖魔法の力を見せつければ国家公務員に就職だって夢じゃないわ。


目の前では生徒たちが自らが得意とする魔法を披露している。

対象として設置された石像に対し、自分の魔法がどう作用するのかを見せつけるのだ。


ある生徒はつむじ風を起こし、ある生徒は炎を発現させて石像を攻撃したり、持ち上げたりしている。

まぁ、たまに水魔法に失敗して制服を濡らしちゃったりする生徒が出るのも、ご愛敬だ。


あらあら、みなさん、平々凡々な魔法でございますわね。

貴族といっても大したことないのかしら~?


 「次、モニカ・ホールズワース」


 「はい!」


あ、私の唯一の友、モニカさんだわ。

属性は……雷なのね。


次の瞬間、雷がモニカの周囲に集まり、キラキラと輝き出す。

そしてモニカが魔法の指針として設置された石像に狙いを定めると、その輝きが一気に集約して……


バリッッ!!!


けたたましい音と共に石像が破壊された。

誰ともなく、拍手が沸き起こり、それはやがてクラス全員に伝播した。


美しさ、威力共に、これまで見たどんな魔法よりもすごかった。

誰よ、負け確令嬢とか思っていた人は!

ごめんなさい、私です!!

でも、次に出る人、これはプレッシャーだろうなぁ……ご愁傷様。


「次、エリー・フォレスト!!」


プレッシャアアアアアアアアア!!


嗚呼、前に出る私は、絶対に変な汗をかいていたはず。

でも、みんなを見返すには、やるしかない。


刮目せよ、生徒諸君!!

これが聖女エリー・フォレストの魔法よ!!


ばっ、と力を入れて、モニカさんに借りた杖(自分のは誰かに折られた)を振りかざす。

すると私の体が発光し始める。


「…………!?」


何が起こるのだ、と生徒たちが静寂し、注目する。

あああ、気持ちいい!!

蔑まれ続けた自尊心が満たされていくのを感じるわ!!


輝き続けた私の体は、やがてその輝きが小さくなっていき……そして、消えた。


んんん?

あれ、対象物は? 壊れたりしてない?


「何も起きてねーよ」


対象となる石像がしゃべったように聞こえたのは、私の幻聴か。

静寂が続く教室に、先生の声だけが響く。


「………終わり?」


「はい」


次の瞬間、教室に盛大な笑い声が巻き起こる。

そりゃあそうだ。

全身が、輝いて、消える。

ただそれだけの魔法なのだから、何のために存在しているのか分からない。

先生も、そう思ったのだろう。


「平民風情が…これが何に使えるってんだ?」


即答できず、迷いに迷った挙句、答える。


「キャ、キャンプファイヤーとか?」


教室での笑い声がさらに大きくなり、この日から私のあだ名は「キャンプファイヤー」になった。

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