・初恋の折り紙

「折り鶴ってね、二つの折り方があるのよ」


 彼女はそう言って、僕の目の前でオリガミを使い二つの折り鶴を折った。


「こっちがオスで、こっちがメス」


 千羽鶴に使われるようなよく見るタイプが折り鶴のオスで、鬼灯のようにふっくらした折り方をしているタイプがメスらしい。


「メスの方はあまり見たことがないね」


「でも、折るのは簡単なのよ」


 僕の手元にオリガミが置かれる。一緒に折ろうという意味合いだと悟った。


「まずはこういう形に折って……」


「うん」


 四角形のオリガミは彼女の言うように折っていくとだんだん鶴の形になっていく。それはまるで魔法の様だった。


「あら、ちょっと形が崩れているわね」


 彼女はそう言って僕から折り鶴をそっと抜き取る。その時、彼女の白いけれど温かい指が僕の指にほんのりと触れた。


「ここをこうして……ほら、綺麗。あなたはすごく手先が器用なのね」


 僕の折った拙い折り鶴を彼女が見ている。それがたまらなく恥ずかしく、たまらなく誇らしかった。

 大人になっても、僕はその光景が忘れられない。だから、僕は大人になっても折り鶴といえばメスの折り鶴を折ってしまう。


「お前の鶴ってなんか変な折り方だよな」


「うん。折り鶴にはオスとメスがあるんだよ」


 僕の初恋は、折り鶴だ。

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