第8話 何度もあたるスクラッチ【お金にまつわる笑える怖い話】

(本話の分量は、文庫本換算2P程です。)




俺(男・27歳)は、小説家を目指しながら家庭教師で生計を立てている。


小説を書く時間をたくさん欲しいものの、家庭教師の時間を削ったなら生計を立てられない。小説で貯金を作れると信じて生きてきたし、貧乏もまた一興と思っていた。でも、それは20代前半のことだ。20代後半の今、貯金がないことがひどくコンプレックスに思いはじめた。と言っても、家庭教師を生涯の生業と考えていない俺には、仕事内容のステップアップや仕事量増加はしのびない。


今は帰宅の途中。どっちつかずのもどかしさを感じつつ、電車定期区間に有る市街地の駅で降りて、改札を抜けて、隣接する大型商業施設の入口をくぐった。そこに、宝くじ売り場が有った。


俺にとって、宝くじは、2か月に1度程の頻度で気まぐれに購入するようなもの。今日をその気まぐれの日と決めた。




20万円以上が当たったら…憧れの貯金生活だ。期待しつつ、スクラッチを3枚購入した(さまざま有る宝くじだがスクラッチを購入した理由はその場であたりはずれの知れるため)。


販売員さんの前で削ると、あたりでもはずれでもリアクションを意識してしまうので、落ち着かない。トイレで削ろうと、俺は移動。


トイレにて。偶然にも個室二つ空いていることを喜びながら入って、鍵を閉める。そして、スクラッチとコインを取り出して、荷台のようなスペースに置いて削る。すると、2枚ははずれ、1枚は200円のあたりだ。あたりというのは、200円であっても嬉しい。ただし、200円で購入したスクラッチで200円のあたりだと、宝くじに期待するものを得ていない。


俺はトイレを出て、先ほどの宝くじ売り場に戻った。




あたりスクラッチと200円を交換するが、すぐにその200円でスクラッチ1枚を購入。トイレへ。同じように、個室に籠って削る。同じ絵柄が見事に3つ出てきた。また200円のあたりである。ただし、これでは先程と同じ。


俺はまた、先ほどの宝くじ売り場に走った。またあたりスクラッチと200円とを交換して、すぐにその200円でスクラッチ1枚を購入。またトイレに。同じように個室に籠って、削った。また200円のあたり。


同じく、そのあたりスクラッチを持って売り場に行って200円と交換し、その200円でスクラッチ1枚を購入して、またトイレの個室に籠った。果たして、いつまで200円あたりループは続くのだろう?俺は、あたりへの期待よりも、そろそろはずれが出て終了するのではないかと不安が過った。


緊張すら感じつつ、削った。すると、同じ絵柄が4つ出てきた!1000円のあたりだ!




良い運に導かれて何かを成したような気分だ。俺はそのあたりスクラッチを持って売り場に。そして、1000円を得た。もう、新たにスクラッチは購入しなかった。その1000円で、お隣のデパートにて普段よりも高めの地ビールを購入して帰宅。


夕食。俺は、そのビールと惣菜をテーブルに並べる。プシュッといわせて、一口つける。苦味と甘味に高級感を感じる(料理に詳しくは無いけど)。あたりが続いたことを改めて思い出す。はずれたらそこで終わり、そんな緊張感も有ったような気もする。今、このようにうまいビールを味わうと、達成感が湧いて来る。そう思うと、ふと頭によぎったものがある。200円や1000円があたる確率は、当たり前だけど十万円等高額のお金があたる確率よりも高い。でも、今日のように、連続であたる確率ならどうなのだろう?


俺はスマホを取って検索。今回購入したスクラッチの全発行枚数と各金額のあたりくじの発行枚数を調べて、確率を計算した。なんと、10000円が1枚当たる確率は、今日の俺のように「200円が3連続で当たった後に1000円が当たる確率」より、ずっと高いのだ。俺は、10000円があたる確率よりも低いあたり方をしたのに、当選金額は1000円。


「金運」と「当たり運」とは、別物なのか?でも、うまいビールだ。何かの夢は叶ったとは思うのだ。



以上「第八話:何度もあたるスクラッチ【お金にまつわる笑える怖い話】」。

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