第6話 タクシー乗車時の注意点【顔面蒼白?怖い話】
(本話の分量は、文庫本換算1P程です。)
眠い!頭がグルグルする!でも、じんわりと暖かくて心地よい。
金曜日の終電後、俺は駅前ロータリーでタクシー待ちの行列に並んでいた。立っていられることすら不思議であって、おそらく、意思でコントロールできないさまざま物理的要素が絶妙に絡み合って、立っているのだろう。
それにしても…。俺は、じんわりと暖かくて心地良い身体を、さらに心地よくすることを頭に浮かべる。システム開発を請け負う会社に勤めている俺だが、先程、事務的備品を提供するxyz株式会社のシステム開発担当者を接待した。その場で、契約してくれる約束のようなことばを得た。
あと一歩かな。店の選定も良かったし、仕事の話しを切り出すタイミングも良かった。今日の俺は、冴えていたな。自分に酔いしれる。
列に並び始めて30分くらいかな?俺が先頭になった。そしてついに、タクシーが駅前ロータリーに入ってきて、俺の目の前に横付けして後部ドアを開く。俺は、足元に気を付けつつ、なだれ込むように乗車。
「どちらまで?」という運転手に対して、俺は「△△市××三丁目でそこからは説明します」と言った。
タクシーは走り出す。30分はかかるだろう。座っていると、眠気は明らかに俺の主体意思に勝りはじめる。ふと、カクン!と首~肩や腰への衝撃に、主体的意思を取り戻す。だが、またぼんやりして来て、ふとカクンとして目を覚ます。これを繰り返す。
ダメだ。起きていないと。俺は、主体的意思を取り戻す。アパート付近には運転手に右だ左だお伝えする。××三丁目以降は「◎◎ビルへ」と伝えれば寝ていれば良いのだが、個人情報保護からして伝えるのは止そう。いや、気にし過ぎかな?それより、寝る前にもう一杯飲もう。それなら近所のコンビニで降ろしてもらおうか?ちょっと良い酒にしよう。今日はうまくいったな。ただ、調達時間と当日予約のタイムラグにもっと改善点は有る。まだまだ悩ましい。xyzは売買データの繁栄にタイムラグ。そう言えばこの前接待したabc会社のシステムは個人情報の暗号システムに改善点有り。う~ん。仕事は山積だ。(またぼんやりしてくる。)
それからは、「◎◎ビルまでと言おうか?近所のコンビニで降りようか?」「xyz会社のタイムラグの改善点」が頭を巡りつつ、ぼんやりしてきてカクンとなる。こんなことを繰り返しつつ、ぼんやりの時間が長くなって行ったと思う。
ふと。運転手の強めの声。夢を見ていた気もする。顔を上げて窓の外を見る。自宅アパートだ。運転手に言われるまま、お金を支払った。降車して、アパートの玄関をくぐる。部屋へと階段を上って、玄関の前に。
その時、はっと気が付いた。俺は、運転手に、アパートのピンポイントの住所、つまり◎◎ビルまでとは説明していない。何で、あの運転手は俺のアパートが分かった?
ふと、俺は夢と現実の狭間で「◎◎ビルまでと言おうか?近所のコンビニで降りようか?」等と悩んでいたことを思い出した。もしかすると、声に出して呟いていた気もしてきた。同時にハッとした。「xyz会社のシステムのタイムラグに改善点」とも呟いたような。俺は、サッと頭や顔が冷えるのを感じたのだった。
以上「第六話:タクシー乗車時の注意点【顔面蒼白?怖い話】」。
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