第5話 ようこそ我が工場へ【心霊?怖い話】

(本話の分量は、文庫本換算2ページ程です。)




大学からの帰路の電車内。俺は、スマホでアルバイトを探している。条件の合う案件の無さに、溜息も出る。


インターネット検索エンジンに「○○市(俺の暮らすアパートが有る) シフト自由」と検索すると、大手求人情報サイトのページがズラリと表示されるが、フルタイムであって学業を優先できないもの、苦手な接客業務のものなどなど飲み込めない条件が入っているものばかりだ。


大手求人サイトに俺の希望を叶えてくれる求人情報はないのか?そう思った時、そうだ!俺は閃いた。大手求人情報に掲載されないようなマイナーな会社に条件の合う求人は有るのでは?パッと頭に浮かんだのは、普段歩いていて目にするアパート周辺(多摩地方の住宅街)に有る中小企業たちだ。事務所や町工場等たくさん有る。徒歩圏内なので通勤しやすい点も良い。俺は、インターネットの検索エンジンに、覚えている会社名+求人と検索する。すると、街の掲示板サイトの投稿の一つが表示された。その会社が投稿したものか、求人募集の投稿だった。ただし、募集終了と書き添えてあった。まあ、街の掲示板サイトにも求人情報が掲載されていることが分かった。


俺は、その掲示板サイトの検索エンジンで、「○○市 求人」と検索した。いくつもの求人情報が表示される。先程見た大手求人情報サイトにも有ったもの、俺には合わない業種のもの、俺に合わない勤務時間のものは読み飛ばす。そんな中で、「片付け・清掃・夕方以降3H」の文字が躍る欄が有った。俺は目を止めて詳細に読んだ。


会社名:町工場a(仮)。仕事内容:作業後の片付けや清掃と翌日の準備と資材の運搬。時間:17時~3h程で週3~5日。勤務地は、掲載された地図から察するに、アパートから徒歩20分くらいだろう。以上、俺の探している条件とマッチだ。ここに応募することを前提に、どのような会社だろうかとインターネット検索エンジンで町工場aをしてみた。




町工場aはホームページを有していないようで、表示されたのは、タウン情報サイトや技術系企業の情報サイトや地図サイト等だ。


技術系企業の情報サイトを開いてみる。表示されたのは静止画で、中年の作業着男が、白髪のスーツ男からトロフィーを授与されている。その画像の下に小さな文字で説明文「トロフィーを受け取る町工場a社長Aさん(仮名)と授与する○○連合(技術系町工場たちが共同で運営する事務局)会長Bさん(仮名)」が有る。画像の下には本文が有る。流し読みしたところでは、「町工場aが金型プレスの技術やいくつもの特許で評価されている」といった内容。


俺は、町工場aで働きたくなってきた。


街の掲示板サイトに戻ってそのサイトの検索エンジンで町工場aと検索。すると、取引の有った者たちからのお礼のような投稿、社長の笑顔が素敵だなんて周辺住民のものだろう投稿等良いものが目立つ。一方で、「大量生産化する機械を新開発→特許を取得して大儲け→儲けを次の開発につぎ込む怪しい会社」「倒産しちゃったね。わかりきってたよね。社長の考えが無茶するぎる」なんて投稿も有った。


倒産という文字に、俺は焦った。倒産したのか判別する材料になる投稿を探した。探している内に、お礼のような投稿や会社を評価するような投稿は数年前のもの等古いものの多いことに気づく。そんな中で、求人についての投稿も見つけた。「倒産したって噂も有るけど、この会社って清掃員の求人情報が出ているよね。倒産なんてしてなくね?」「清掃員なんて募集してないだろう、倒産したんだから」「清掃員の応募のために電話したら社長が出てきたよ。内容がきつそうだったのでやめたけど」なんて。


倒産したか否か?結論としては、実際に応募してみないと分からないといったところだ。電車を降りたら電話してみよう。窓の外を見ると、夕日に染まる高層ビルたちが目立つ。多摩地方の一大都市の一つに有る駅が迫っていた。俺のアパート最寄り駅はその隣だ。




5分程して、電車はアパート最寄り駅に到着。スマホを握ったまま俺は降車。駅ホームで、タウン情報サイトに記載の電話番号に電話した。


8コールくらいして、慌てた様子の中年男の声が応える。俺は、求人情報を見たこと、応募したいことを述べた。中年男は、名を名乗った上で愛想良く対応してくれて、面接日時が三日後に決まった。


事務手続きを終えると、中年男は日常的な会話をはじめる、「社長である私自ら電話に出たり、職人として工場で作業したり、大変だよ」なんて。俺は、社長の人柄に好感を持った。


電話を切った俺は、面接の日が楽しみに思えた。




面接日。大学を出た俺は、スマホにタウン情報サイトに掲載されていた町工場aの住所を地図サイトで検索して地図を表示させて、自宅アパートを通り過ぎて歩いた。


住宅街も端の方に差し掛かって、家々も疎らになってきた。そこに、中型スーパー程の大きさの工場らしき建物は見えてきた。ここだな。俺は、早歩きに敷地入口に立った。


大型トラックがすれ違える程の広いアスファルトの通路を挟んで、作業場らしき箱型の建物が横たわっているものの、中から音はしない。トラック等も通行していない。気になった俺は、道路を渡り箱型の建物に入って見る。誰もいない。遠近感で遠く小さく見える程に広い空間に、機械はズラリと並んでいるものの、みんな沈黙している。工場としては寂しい風景だ。


俺は、電話で社長に言われた通りに事務所へ向かうべく、作業場を出た。建物の周囲をグルリと歩くと、事務所らしき二階建ての家屋を発見した。


アルミ扉の前へと歩く。ドアを開けてみた。室内にはデスクが並んでいるものの、誰も居ない。長らく掃除されていないと思えるような、埃っぽい部屋だ。並ぶ事務デスクも寂しそう。


俺は脚を踏み入れる。各デスクの上に、何年も使われていなさそうな、埃まみれの固定電話が有る。その電話が機能しているようには見えない。だがその固定電話には、電話番号の書かれたテープが貼られている。その固定電話の番号だろう。


その番号を読んだ俺に、恐怖の衝撃は走る。その番号こそは、俺が清掃のバイト応募のために架けた番号だ。社長と話したあの番号だ。俺はこの機能して無さそうな電話へと架けて社長と話したと言うのか?いやいや、もしかして、この電話は埃をかぶっているもの、機能しているかもしれない。俺は自分に言い聞かせた。すると、手に握っているこのスマホで目の前の固定電話に架けてみればどうだろう?と自分自身に話しかける自分が居る。それで固定電話が機能していなかったら…。


ダメだ。怖いので、止めにした。




俺は、事務所を出ようとデスクに背を向けた。


その時。背後で、ドタン!と大きな音がした。


びっくりして、振り返った。


そこに、大きなトロフィーが転がっていた。



以上「第五話:ようこそ我が工場へ【心霊?怖い話】」。

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