第4話 或る大学講師の成果【トンデモ!笑える怖い話】
(本話の分量は文庫本換算4P程です。)
今、俺(男・29歳・大学講師)は、友人A(男・同い年・同大学の講師)の部屋にて、長年の自説を実証するに至った。
友人Aは、シャワーを浴びている。その隙に、俺はデスクに着いて友人Aのパソコンを起動して、wordアプリを開いてそこに保存されていた文章から適当に一文選んで、コピペしてネット検索。一つのサイトが表示されたのだ。
それにしても…。友人Aといい、俺といい、教育者でもある職業としては世間に胸を張って公表できない秘密を持つ講師だな。(違法ではない。また、大学講師という職業は、間接的にも直接的にも世の役に立ち得ることも知れた。)
それから俺は、背もたれに身を預けつつ友人Aと出会ってから今日に至るまでを思い、溜息をついた。
俺と友人Aは、大学時代からの付き合いだ。大学時代は同じサークルに入っていたし、今に至るまで二人だけで飲みに行ったりもしている。俺が大学院時代、就職できなかったらどうしようか不安になっていた時、励ましてもらったことも有る。良い友人と言えばその通りだ。
そんなこんな、俺は友人Aの人となりをそれなりにも知っている。ざっくりと言えば、「普通でない奴」だ。エピソードを上げるときりがないが、大学時代のものをいくつか。
・サークル合宿で、集合場所に一番に到着したのに、集合時間が迫るにつれ表情が緊張していって、挙句、忘れ物の確認だの部屋に戻って、最後に集合。
・同級生たちが就職活動でピリピリしている時にも、ストレスも不安も感じない様子であったが、就職活動をしていないだけだった。
・内定を得る同級生たちが増えてきた大学四年生の夏くらいに、「小説家になる」なんてサークルのみんなに公言。
そんな友人Aだが、彼のことを好きだという、1歳下の女子もいた(仮に女子A)。
(この女子Aは、友人Aが小説家になると公言した約1年後に、エンタメ業界に就職。エンタメ業界に就職するような女子Aにとって、友人Aの独特の世界観や驚く言動も、面白いものと捉えていたのかもしれない。)
友人Aと女子Aは恋愛関係まで発展したのかは知らないが、二人で下校したり二人で昼食を取ったりの姿を、俺やサークル仲間たちは目撃。他にも、俺との会話で女子Aは、「友人Aが小説家として生計を立てられるようになって欲しい」と感傷的に述べたこともあった。二人は、いわゆるいい感じに発展しつつあった時期も有った。
まあ結局。女子Aの恋心は冷めたようだけど…。女子Aが、俺も含めたサークル仲間の前で「講師Aの書く小説を私は理解できない」なんて言うことが目立つようになった。その辺りから、二人の距離は遠のいた印象だ。
友人Aと女子Aの距離が遠のいて後のこと。俺は友人Aと飲んだ帰り、彼のアパートに泊まることになった。友人Aがシャワーを浴びている時、俺はデスクの上の本立てに、何冊ものノートが並んでいるのが目についた。一冊を適当に手に取って、開いてみた。
パラパラとページを流していると、何ページかに一ページ程の割合で最上部に「年上のお姉さんに手ほどきされて」「女上司に認められた夜に」などの一文。パラパラを止めて本文を飛び飛びに眺めると、「ふいに二人っきりになって」「たまたま点けたTVでは大人のシーンが流れていて」や二人の人間が抱き合うような絵、あちこちをつなぐ矢印などなど。それらを見た俺はピンときた、アダルトビデオのシナリオだ。
俺は、興味が有ったわけではないものの、友人Aの部屋を探ってみた。
(友人Aは、部屋を探られて怒るタイプではないし、探られてまずいものがあるなら、俺を一人にしてシャワーを浴びないタイプと思う。もちろん、勝手に他人の部屋を探るのは良くないけど。)
クローゼットを開けた時に、段ボール箱を見つけた。蓋はガムテープ等で閉じられていないため中を覗くと、大量のエロDVDだった。パッケージを見ると、「女上司もの」や「お姉さんもの」「社長の奥さんもの」等、当時大学生である友人Aにとって年上女性ものが多かった。
もしかして。女子Aが友人Aを嫌った理由は、エロ小説を作っていることもさることながら、年上女性へ憧れていると知ったため?
そう納得してまたデスクに着いた俺だが、アダルトシナリオと思しきノートの隣にHPの作り方やネットビジネスに関する書籍もちらほらと有ることに気が付いた。友人Aは東アジア史を専攻していたし、俺が思うに自身の興味がないと動かない性格だ。よって、友人Aにとって、ネットやビジネス等に興味を持つ何かが有ったはずだ。この時、その理由までは分からなかった。
大学を卒業した友人Aは、大学院に通うことに。専攻は商学だ。俺も同じく大学院に進学した。大学院在学中の俺は、研究者になるんだという志を前面に出して、努力した。成果を認められることも有り、予想とは違う実験結果のために予定していた論文を取りやめる憂き目も有り、国家資格の取得に励んだ時間有りなどなど、六年間はあっと言う間に過ぎた。そして、某Fラン大学での講師の地位を手に。同時に、友人Aも、同じ大学で講師になった。その大学は経営拡大の方針からさまざま学部で教員を増員していたので、進路の一致しやすさは有ったかもしれない。
講師になって後、友人Aと交流を続けつつ一年間程経つ現在。その間、講師Aの研究テーマは「個人自営業とインターネットメディアの戦略」ということも知った。
俺の推測だが、友人Aは自身の書いたエロ小説で収益を得るためにあれこれ情報収集や試行錯誤等している内に、エロ小説を個人でネット販売するに至りさらに成功、そしてその実績やノウハウをもとに商学の論文を作成、実践も強味の一つに大学講師に採用されたりしたのではないか?ただす、「エロ小説の販売方法」なんて論文を書くわけにはいかずに、「個人自営業とネットメディア」等オブラートな表現を用いたのでは?
もっと言うと、現在もエロ小説を書いて売っていると思う。良い循環だからね。好きなエロ小説を作成する→ネットを通じてエロ小説を売る→商学の講師として良いデータを得られるため研究も調子良い→エロ小説を作成→…。
ここまで考えた俺は、改めて目の前のパソコンに目を移す。画面に表示されているのは、「情事専門探偵Aの気まぐれ日記」というサイトだ(上に述べたように友人AのPCのwordを起動してアダルトシナリオと思しき一文をコピぺしてネット検索した)。
オリジナルエロ小説、おすすめエロ動画、風俗店の口コミまとめ、浮気の多い職業やら男女でどんな風に恋愛観は違うのかとった眉唾の論説文などなどを掲載するサイト。
適当に短編エロ小説を読んでみると、マニアックなエロシーン満載のものだ。文末に、アクセス意欲を高める一文とともに以上のような性向の風俗店を紹介するページへのリンクが張ってある。アクセスすると、そこからは有料だった。他にも、有料エロ小説や本文途中のアフィリエイトリンクなどなど収益の仕掛けはさまざま有った。
やはり友人Aはエロ小説を販売していた。おそらくは「個人自営業とインターネットメディアの戦略」はエロ小説によるノウハウだ。学生たちは、エロ小説ノウハウを学んでいるようだ、「エロ小説」の部分は覆われた上で。日常に潜む、或る意味で怖い話と言えるかもしれない。
俺は、クリックを繰り返してサイトから離れると、インターネット検索履歴を削除してwordアプリを閉じて、パソコンをシャットダウンする。画面が真っ暗になったことを確認。その画面に映る俺の顔を見ながら、俺自身を顧みた。
とは言え、俺は友人Aのことをいかがわしい奴だなんて言える立場ではない。
俺は、心理学の講師だ。恋愛心理の研究において、俺の手法の一つは、男性用エロDVDと女性用エロDVDの分析だ。これらの分析によって、男性の持つ恋愛ニーズの一つや女性の持つ恋愛ニーズの一つを分析するのである。
また、俺は心理を操る達人だから心理学の講師になれたのではない。どちらかと言うと、人の心理を瞬時に読み解くことは苦手で、操るなんてさらさらできない。その結果か?恋愛経験だって、欲求不満の女性に遊ばれたり次の本恋愛へのつなぎに利用されたようなものばかりだ。それが悔しいから、必死になって心理学を勉強した。時間をかければ、心理を深く読み解けるようにはなったと思う。
仕事上、学生に対して申し訳ないと思う場面も有る。なぜなら、学生の中には、心理学講師という肩書の俺を恋愛上手だと信じている者もいる。本気の恋愛相談すらしてくる学生もいる。俺は達人の振りをしてアドバイスをする。
そんな俺自身に対して、日常に潜む怖い話の一つとも思ってしまう。まあ、学生の反応からして、それなりに役立ってはいるみたいだ。
ここまで思い、ふうっと溜息をつきながら天井を見上げると、廊下の方でガタガタバスルームの扉の開く音がする。見ると、友人AがTシャツ半パン姿に頭にタオルを懸けて出て来た。目が合うと、友人Aは「何ぼ~っとしてんだ?」と言う。
以上「第四話:或る大学講師の成果【トンデモ!笑える怖い話】」。
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