最後の1組
3
「沖左京さんは関西お笑いのインディーズシーンで活動していたそうですが、なかなか目が出なかったようで……」
「関西はお笑いの激戦区だからね、抜きん出るには運というのも必要だ……」
女性の説明に烏丸は腕を組みながら答える。
「それと西さんですが……」
「うん」
「身辺調査の結果、完全に一般人でした」
「それは朗報だね」
烏丸はほっとした様子を見せる。
「反社との繋がりでもあったら、大打撃ですから……」
「まったくだ」
「しかし、何故に合格させたのですか?」
「他の芸能人には一切興味が無く、自分のファンだと言ってくれたからね。今回のオーディションを受けたのも自分が関わっていたからだそうだ」
「……本気でおっしゃっていますか?」
女性が戸惑う。
「そういう〝縁〟みたいなのも必要なんだよ……」
「縁……」
「ああ、〝円〟はもっと大事なものだが……」
「はあ……」
「冗談だ……さて……失礼、お邪魔するよ」
烏丸が最後の部屋に入る。
「あ、お、おはようございます!」
「……おはようございます」
勢いよく頭を下げる花の横で、春一がややムッとした表情で挨拶する。
「……不機嫌そうだね、春一」
「それは不機嫌にもなりますよ」
「理由を聞いてもいいかい?」
「このミーハー女がうるさいんですよ……」
春一が花を指し示す。
「ミ、ミーハー女って、あたし⁉」
「他に誰がいるんだよ……騒ぎやがって」
「だ、だって、あの天才子役の『東野春太』君でしょう⁉ あたし、君の出ているドラマは全部見ていたよ!」
「昔の話だ……」
「いや、今でも覚えているよ! 『夜叉丸はあんな女願い下げでござる!』って台詞!」
「そんな台詞じゃねえよ!」
「あれ? そうだっけ?」
花が首を捻る。
「『九郎はいずれこの京に戻り、清盛めの首を獲る……!』だよ」
「お、おお~」
花が春一に対し、拍手を送る。
「ちっ……」
春一が恥ずかしそうに顔を背け、鼻の頭をこする。
「さすがは天才子役だ。ブランクをまったく感じさせないね」
「……どうも」
烏丸に対し、春一が軽く頭を下げる。
「どうしてまたこの業界に?」
「……演じることは好きですから……でも」
「でも?」
「せっかくの機会ですが……このオーディション、やっぱり辞退させてもらおうかと……」
「……理由を聞いても?」
「俺はアイドルなんてガラじゃないですよ」
「最近は声優業界もアイドル化している。大きな会場で、大勢のお客さんの前で歌ったり、踊ったりする機会も多くなっている」
「それは理解しているつもりですが……どうしても苦手意識があって……」
「歌などがNGだとオーディションもなかなか受からないと聞くよ?」
「それは……」
「花に教えてもらえば良い。花、『にじいろダイヤモンド』の『飛べっ!探偵少年』を……」
「はい!」
「『真新しい企業の若手たち』の『老害キエロー』を……」
「はい‼」
花が烏丸の指定した曲を即座に歌って踊ってみせる。かなりのキレのあるダンスだ。
「こ、これは……」
「なかなかのものだろう? 彼女には演技を教え、君は歌と踊りを教われば良い」
「むう……まあいい、よろしくな、ドルオタ」
「あ、あの、君の方があたしより一つ年下なんだけど?」
「業界では俺の方が遥かに先輩だ」
「むむっ……」
「元天才子役と生粋のアイドルオタク、はてさてどうなるかな……?」
烏丸が興味深そうに春一と花を見つめる。
禁忌破りのアイドルたち~男女八人夢物語~ 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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