最後の1組

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「沖左京さんは関西お笑いのインディーズシーンで活動していたそうですが、なかなか目が出なかったようで……」

「関西はお笑いの激戦区だからね、抜きん出るには運というのも必要だ……」

 女性の説明に烏丸は腕を組みながら答える。

「それと西さんですが……」

「うん」

「身辺調査の結果、完全に一般人でした」

「それは朗報だね」

 烏丸はほっとした様子を見せる。

「反社との繋がりでもあったら、大打撃ですから……」

「まったくだ」

「しかし、何故に合格させたのですか?」

「他の芸能人には一切興味が無く、自分のファンだと言ってくれたからね。今回のオーディションを受けたのも自分が関わっていたからだそうだ」

「……本気でおっしゃっていますか?」

 女性が戸惑う。

「そういう〝縁〟みたいなのも必要なんだよ……」

「縁……」

「ああ、〝円〟はもっと大事なものだが……」

「はあ……」

「冗談だ……さて……失礼、お邪魔するよ」

 烏丸が最後の部屋に入る。

「あ、お、おはようございます!」

「……おはようございます」

 勢いよく頭を下げる花の横で、春一がややムッとした表情で挨拶する。

「……不機嫌そうだね、春一」

「それは不機嫌にもなりますよ」

「理由を聞いてもいいかい?」

「このミーハー女がうるさいんですよ……」

 春一が花を指し示す。

「ミ、ミーハー女って、あたし⁉」

「他に誰がいるんだよ……騒ぎやがって」

「だ、だって、あの天才子役の『東野春太』君でしょう⁉ あたし、君の出ているドラマは全部見ていたよ!」

「昔の話だ……」

「いや、今でも覚えているよ! 『夜叉丸はあんな女願い下げでござる!』って台詞!」

「そんな台詞じゃねえよ!」

「あれ? そうだっけ?」

 花が首を捻る。

「『九郎はいずれこの京に戻り、清盛めの首を獲る……!』だよ」

「お、おお~」

 花が春一に対し、拍手を送る。

「ちっ……」

 春一が恥ずかしそうに顔を背け、鼻の頭をこする。

「さすがは天才子役だ。ブランクをまったく感じさせないね」

「……どうも」

 烏丸に対し、春一が軽く頭を下げる。

「どうしてまたこの業界に?」

「……演じることは好きですから……でも」

「でも?」

「せっかくの機会ですが……このオーディション、やっぱり辞退させてもらおうかと……」

「……理由を聞いても?」

「俺はアイドルなんてガラじゃないですよ」

「最近は声優業界もアイドル化している。大きな会場で、大勢のお客さんの前で歌ったり、踊ったりする機会も多くなっている」

「それは理解しているつもりですが……どうしても苦手意識があって……」

「歌などがNGだとオーディションもなかなか受からないと聞くよ?」

「それは……」

「花に教えてもらえば良い。花、『にじいろダイヤモンド』の『飛べっ!探偵少年』を……」

「はい!」

「『真新しい企業の若手たち』の『老害キエロー』を……」

「はい‼」

 花が烏丸の指定した曲を即座に歌って踊ってみせる。かなりのキレのあるダンスだ。

「こ、これは……」

「なかなかのものだろう? 彼女には演技を教え、君は歌と踊りを教われば良い」

「むう……まあいい、よろしくな、ドルオタ」

「あ、あの、君の方があたしより一つ年下なんだけど?」

「業界では俺の方が遥かに先輩だ」

「むむっ……」

「元天才子役と生粋のアイドルオタク、はてさてどうなるかな……?」

 烏丸が興味深そうに春一と花を見つめる。

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禁忌破りのアイドルたち~男女八人夢物語~ 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji

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