第6話

「何を考え込んでるんだい」

「!」


突然耳元で囁かれ飛び上るほどに驚いた。


現実世界に引き戻された私の視界に入ったのは今まさに想像世界にいたその人だった。


「箸を持ったまま考え事かい?」

「や、弥ノ助さん! どうして」

「集まりが終わったから寄ってみた」

「……あぁ、老人会、終わったんですか。お昼ご飯は? 食べましたか?」

「向こうで弁当が出てね。これ」


そう言いながら白い水玉模様が散らばっている青いビニール袋に包まれた四角い箱を掲げた。


「皆さんと一緒に食べてこなかったんですか?」

「どうせなら君と食べようと思って。少し遅かったかな」

「あー…そうですね、あと10分ほどでお昼休憩も終わりです」

「ふむ…。おーい、忠司」


弥ノ助さんは徐に厨房に向かって声を張り上げた。


弥ノ助さんの声を聞いて忠司さんがやって来た。


「なんですか、伯父さん」

「里咲ちゃんの休憩時間、30分ほど伸ばしてくれないかね」

「弥ノ助さん?!」


何を言い出すのかと思えばそんなことをいった弥ノ助さんに私は慌てた。


「夫婦水入らずの時間、過ごしたいんだよ」

「夫婦水入らずの時間って……そんなの家に帰ってからだっていくらでも過ごせるでしょうが」

「無粋なことを言うねぇ。俺たち新婚さんだよ? そこら辺、ちーっとは気遣ってくれてもいいんじゃないかぃ」

「確かに見てくれだけは初々しい新婚さんだけどな。でも伯父さんにはフレッシュさが欠けてんだよ」

「じじぃにフレッシュさを求めるな」

「だったらじじぃはじじぃらしく若い嫁さん困らすんじゃないよ」

「困らせてなんかいないよ。一緒に昼飯を食いたいと言っているだけじゃねぇか」

「それが困らせているってんだよ」


弥ノ助さんと忠司さんの会話を何ともいえない気持ちで眺めていた。

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