act.2

第4話

「結婚式、よかったですね」

「……そうだね」

「姉としては複雑ですか? 弟に先を越されて」

「……」


悠希の結婚式で10年ぶりに再会した貴央と披露宴後、ホテルのバーで飲み直していた。


ふたり共積もる話もあるだろうからという悠希の計らいで設けられた席だったけれど……


(あぁ……なんで会っちゃうかなぁ……)


私の胸中は居心地の悪さでいっぱいだった。


久しぶりに見た貴央はほんの少しだけ子どもの頃の面影が残っていたけれど、大体が思わず見惚れてしまうような好青年に成長していた。


勿論背だって私なんかを軽々越えてスラリと高いし、スーツもさらりと着こなしていてちょっとした仕草の端々に男を感じさせた。


今は外資系の会社に勤めているといった彼は英語が堪能で、そんなスキルが窺える場面に接すると何度もドキッとした。


(ズルい……こっちは老いるばかりだっていうのに)


既にアラフォー域に入っていた私はもう婚活すら諦めている有様だった。



「柚希さん」

「!」


カウンター席で隣に座っていた貴央が私に近づき耳打ちした。


「どうして結婚、しなかったんですか」

「……え」

「付き合っていた彼氏にプロポーズ、されたんですよね」

「! ど、どうしてそれ、知って───」

「さぁ、どうしてでしょう」


口の端をフッと上げ、意味あり気に微笑んだその顔に不覚にも胸が高鳴った。

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