第8話

そして篤志くんは囁くように続けた。


「な? アイドルになんてならないでくれよ。俺だけの真子でいてくれ」

「うん……うんうんうん!」


勢い余って私から篤志くんに触れるだけのキスをした。


「!」

「好き……好き好き大好き、篤志くん!」

「……真子」


触れただけの軽いキスはすぐに放され、今度は篤志くんからキスして来た。


先刻私からしたキスとは全然違う大人のキスだった。


「はぁ……あ、篤志、くん」

「真子、覚悟しろ。今の俺は手加減出来ない」

「っ、うん」


篤志くんに愛される。そう思っただけで幸せ過ぎて心臓が張り裂けそうだった。



私はこの日、アイドルになるという夢を綺麗さっぱりと捨てた。


だけど諦める夢がある一方で諦めなくてよかった夢がある。


(私、アイドル志望からうどん屋のおかみさんになります!)


これは私が幸せになるための初めの一歩だ──。




Episode01 結婚前のお話(終)

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