第5話

「あ、着信。ちょっとごめん」


篤志くんはあっさりと私から離れて行ってしまった。


(はぁぁ……本当、タイミング悪い)


益々気分が落ちたところに篤志くんの「あぁ、里佳子か」発言にハッとした。


(りかこ!)


その名前を聞いて固まった。里佳子というのは篤志くんの彼女だ。


そう、私が素直に気持ちをぶちまけられないのは彼女の存在があるから。


里佳子は篤志くんがうどん修行のために勤めていたうどん屋の娘さんだ。


(まだ続いていたんだ……)


篤志くんが自分の店を持った時、てっきり結婚するのかと思っていたけれどそれはなかった。


だから少し安心していたところがあったのだけれど、こうやってたまに電話があったりするからその度、付き合いはずっと続いているのだと自覚させられた。


篤志くんと彼女の電話のやり取りが気になって其処から動けないでいる。


聞きたくなくてもつい聞こえてしまう電話のやりとりにドキドキしていると──


「あそこの式場? あぁ、いいんじゃないか」

「!?」


(今、『式場』って言った?!)



式場って……それって……



(結婚──?!)


よくない想像を抱かせる会話に有り得ないほどの衝撃を受けて、更にその場に凍りついたままになってしまっていた。


「あぁ、分かった。ジューンブライド目指していたんだもんな。了解、都合つけとく」

「……」


(いよいよ結婚、するんだ……篤志くん)


決定的な言葉を訊かされて絶望的になってしまった私はただその場に立ち尽くすだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る