第2話 記憶

 その後、私たちはご飯を食べながらお互いのこれまで育ってきた環境について話した。

「改めて、僕はリト。15歳。12歳になるまで、“ジル”という名の人語を話す真っ黒なオオカミに育てられた。

『おまえは、おまえの父上の魔法でミラクスから俺がいるこの洞窟まで飛ばされたのだ。大丈夫だ、おまえは俺が育てる。だから1つ約束して欲しい。成長しても絶対に、おまえの父には会いに行くな。いいか、約束だぞ、リト。』

・・・ジルは僕にに、そう口酸っぱく言い聞かせていたんだ。自分のことを遠い地まで飛ばして、ほぼ捨てたと同然な父にわざわざ会いに行くつもりもなかったし、約束を破るつもりもなかった。だが、僕が12歳になる日、事態が急変した。

 その日、いつも通りジルと朝食をとっていると、突然武装した魔物達が洞窟に入り込んできた。その魔物達はオオカミの顔立ちをしていて、二足歩行だった。」

「え、オオカミ型の魔物はジルみたいなウルフ族ってのがいるけど、通常は四足歩行だよね?二足歩行のウルフ族なんて聞いたことない・・・。」

「それについても調べている最中なんだ。あと、正確にはジルはウルフ族じゃない。魔力を持っていないからな。人の言葉を話せるただのオオカミ。人の言葉は、昔仕えていた主に教えてもらったらしい。逆に魔物っていうのは、同じような形でもジルとは違って魔力を持ってる。そんな魔物たちが襲撃してきた時、ジルは僕を守りつつ戦ってたけど、しまいには魔物の魔法で拘束されてしまった。

『このオオカミを、ミラクスまで運べ。』

そう魔物達が話していた。僕がジルを必死に追いかけようとすると、

『リト!ミラクスだけは来るな!絶対だ!ミラクスにはおまえの父親もいる!約束を忘れるな、リト!!』

そうジルは言い残すと、魔物達の転送魔法でジル達は消えてしまったんだ・・・。

僕は、シャナと違ってミラクスにいた頃の記憶が全くない。だからミラクスがどんな場所かわからないけど、ジルがいるなら助けに行きたいんだ。それにもし父がまだ生きているなら、直接話がしたい。どうして僕を捨てるような真似をしたのか・・・。」

「その事なんだけどね、私がこっちに送られた日、ミラクスは魔王軍の襲撃を受けていたの。だから、リトのお父さんは魔王軍からリトを守るためにこっちに送ったのかもしれない。あくまで推測だけど・・・。」

「え、そうなのか?ジルからはミラクスのことを何も教えて貰えなかったから、そんなことがあったなんて知らなかった・・・。じゃあ、ジルを連れていった二足歩行のウルフ族ってもしかして・・・。」

「まだミラクスに魔王が住み着いてるなら、そのウルフ族も魔王軍の仲間かもしれないね。何の目的でジルを連れていったのかわからないけど・・・。とにかく、ミラクスがまだ存在することは確か。2人で協力して、必ずミラクスを見つけよう。」

「うん。ジルを助けて、シャナのお母さんと僕の父に必ず会いに行こう。ひとまず今日は宿でゆっくり休んで、明日からまた情報収集再開だな。」

そうして私たちは宿で一晩休み、翌朝次なる町へ出発することになった。

 次に目指すことにしたのは、世界中から植物愛好家が集まると言われている街『グランティア』。私の記憶だと、ミラクスにはこの付近には見ない花が咲いていた。1つの茎に複数の花。その花一つ一つがそれぞれ違う色をしていて、とてもカラフルなものだった。その花が一面に咲き誇っており、美しいカラフルな絨毯が出来上がっていたのをよく覚えている。植物に詳しい人たちが集まる街なら、その花について知っている人がいるかもしれない。

 仲間も増え、心の余裕も出来てきた。宿への足取りも、リトと会う前に比べるととても軽い。ミラクスへの道のりが、少し近づいた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異端児旅行記 日眩 迷子(ひくらみ まいご) @hikurami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画