異端児旅行記
日眩 迷子(ひくらみ まいご)
第1話 旅先にて
あの日、美しい花々が咲き誇り人々が幸せに暮らしていた町は、一夜にして一変し炎と煙に覆われた。煤が舞い、人々が逃げ惑う中、一人の女性が自分に語り掛けてくる。
『きっと、いつかまた会えるから。だから…。』
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「すみません。少しお伺いしたいのですが、ミラクスという町はご存知ですか?」
「え?いやぁ聞いたことない街だな。お前さんわかるか?」
「俺も聞いたことねぇな。俺たち酒飲みにはそんな町より金が欲しいもんだ。ガハハ!」
「そうですか…。お時間をとらせてしまいすみませんでした。失礼いたします。」
「おい、さっきの嬢ちゃんって最近噂の旅人じゃねえか?」
「ああ、存在しない町を探し続けているっていうあの。いったい何がしたいのかねえ…。」
今日も情報収集は上手くいかなかった。旅に出てから掴めている情報はこれっぽっちもない。歩き疲れた私は海沿いのベンチに腰掛け、潮風にあたりながら考えに耽っていた。
『世界一幸せな町』、ミラクス。私の生まれ故郷はかつてそう呼ばれていた。争いも他国とのいがみ合いもなく、お母さんや住人たちは大変幸せに暮らしていた。しかし、魔王軍が押し寄せてきた日を境にミラクスは地図の上から消滅してしまった。それと同時に、私以外の人たちの記憶からも町の存在は消え去ってしまった。
そして私はあの日、母の転移魔法で遥か遠い地の教会に飛ばされた。シスターたちは突然現れた泣きじゃくる私に驚きつつも、快く受け入れ私を育ててくれた。教会にいる間もシスターたちにミラクスについて何か知っているか聞いたり、図書室であの日についての記事を探したりしたものの、手掛かりは何一つ見つからなかった。
そして15歳になった日、幼いころに見たわずかな景色と記憶を頼りに、私はミラクスを探す旅に出た。が、それから一年間大陸のあちこちを巡っているが情報は何一つ手に入っていない。
___『きっと、いつかまた会えるから。だから…。』
まったく進展のない日々にくじけそうになると、母が私にかけてくれた言葉を思い出すようにしている。少し伸びをし、決意を改める。
「ちゃんと覚えてる。だから必ず会いに行くよ、お母さん。」
「会いに行くってどこへ?」
「?!」
後ろから急に声をかけられ驚いて声も出なかった。
「驚かしてごめん。この地の住人から、ミラクスという町を探している少女がいると聞いたんだけど、それって君のこと?」
声の主は私と同い年くらいの男の子だった。黒髪に、人を寄せ付けないような大きな赤い瞳。背丈に合わない大きなカバンを背負い、季節に合わない厚手の羽織りをまとい、鳥の羽で作られた髪飾りを身に着けている。旅人だろうか。
「え、そうだけど…。私に何か用?」
「僕はリト。実は僕もミラクスを探しているんだ。僕はミラクスのうまれで、父の魔法によってこの地に飛ばされてきた。そして今、ミラクスに僕の大切な家族が捕らえられてる。家族を助けるために、そして父に会うためにミラクスに行きたい。そこでお願いだ。君さえよければ、一緒にミラクスを探してくれないだろうか。」
そう言うとリトは、私に深く頭を下げてきた。こんなことは今までなかった。どこに行ってもミラクスのことなんて誰も知らず、興味がないというそぶりしかなかった。なのにここにきて仲間ができるなんて思いもしなかった。
「わ、わたしはシャナ。わたしも母の魔法でミラクスからこの地まで飛ばされてきた。お母さんに会いに行くために、ミラクスを探しているの。仲間ができるなんて、思ってもいなかった!一緒にミラクスを探そう、リト!お互いの大切な家族に会いに行こう!」
こうして私たちは共に旅をすることとなった。
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