第3話 消えた日常
川村達也の失踪の鍵を握る手掛かりを探るため、芹沢孝次郎と斉藤康隆は、彼の妻・川村美香と面会することになった。
薄暗いアパートの一室で迎えた美香の顔は疲れ切っており、目の下には濃い隈ができていた。リビングの片隅には子供の玩具が散らかっているが、その光景はどこか虚ろで、生気を感じさせない。
「川村達也さんの件についてお話を伺いたいのですが……。」
斉藤が穏やかに切り出すと、美香は力なく頷き、ソファに深く沈み込んだ。その目はどこか遠くを見つめているようで、現実を直視することを避けているようにも見える。
「夫がいなくなったのは……もう三日目です。最初は仕事で何かあったのかと思ったんですが……。」
声が震えている。彼女の手は膝の上で固く握りしめられ、白くなっていた。
芹沢は、美香の一連の仕草や言葉に注意深く目を向けていた。彼女の話の中で、断片的に出てくる言葉や動作は、無意識に抑えきれない感情の表れだ。
「川村さんがいなくなる前、普段と違う様子はありませんでしたか?」
芹沢が柔らかな声で問いかけると、美香は一瞬だけ顔を上げた。しかし、すぐに視線を逸らし、低い声で答える。
「……最近、よく携帯を見ていました。何か、知らない人とメッセージのやり取りをしていたみたいで。聞いても、仕事のことだからって……。」
「そのメッセージの内容をご存じですか?」
「いいえ……夫は、そんなに私に話すタイプじゃなかったので……。」
言葉を詰まらせる美香を見て、斉藤が言葉を挟む。
「奥さん、これまでに夫が『共鳴の会』という名前を口にしたことはありますか?」
その質問に、美香は明らかに動揺した。手のひらで膝を掴む力が強くなり、言葉を探すように唇を震わせた。
「……あります。少し前に、『一度行ってみようと思う』って言っていました。具体的に何をするところかは分かりません。でも、夫は最近仕事を辞めて……生活の不安がずっとあったんです。」
「共鳴の会に参加することで、不安が解消されると思っていたのかもしれませんね。」
芹沢がそう言うと、美香は顔を伏せた。声を絞り出すように話す。
「私がもっと夫の話を聞いていれば……こんなことにはならなかったかもしれない……。」
「川村さん、ご自分を責める必要はありません。」
芹沢は静かに、しかし確信を込めて言った。
「共鳴の会は、心理的に脆くなった人々を巧みに取り込みます。その手法は極めて高度で、個人では防ぎようがないこともあります。むしろ、彼が追い詰められていた理由を知ることが重要です。」
「理由……。」
美香は顔を上げ、呟くように言った。
「夫は、家族のために働いていました。でも……会社で突然解雇されて、それからずっと元気がなくて……。私もパートで支えるしかなくて……それが彼の重荷になっていたのかもしれません。」
芹沢はメモを取りながら、美香の話を整理していく。達也が追い詰められた状況が見えてきた――仕事を失い、家庭を支えられないという自責の念。共鳴の会は、その隙間に入り込んだのだ。
「一つだけ、気になることがあるんです。」
美香が不意に口を開いた。その目には恐怖と困惑が入り混じっている。
「失踪する前の夜、夫が家を出るとき……『迎えに行く』って呟いていたんです。その言葉がずっと頭から離れなくて……。」
斉藤は目を丸くし、芹沢と視線を交わす。
「それは確かですか?」
「ええ……きっと何か関係があるんだと思います。でも、何を迎えに行くのか……。」
芹沢は軽く頷きながら考え込んだ。
「それは重要な手掛かりです。彼がその言葉を口にしたということは、意図的に自ら行動を起こした可能性があります。誰かに操られたのではなく、自分の意思で『迎えに行く』先を選んだのかもしれない。」
「そうだとしても、一体何を迎えに行ったんだ……?」
斉藤が苦々しげに呟くと、芹沢は静かに言った。
「その答えは、共鳴の会に繋がっているはずです。そして、この心理的な誘導がどのように機能しているかを解明すれば、次の失踪を防げるかもしれません。」
読者選択肢
ここで、読者の皆さんの選択が物語を進めます。芹沢と斉藤が次に進むべき道を決めてください!
1.「共鳴の会」の内部情報を得るため、団体に関わりのある場所を調査する
2.「迎えに行く」という言葉に隠された心理的背景をさらに分析し、達也の行動を予測する
3.他の失踪者の家族にも話を聞き、共通する要素やパターンを探る
投票締切は明日7時まで! 応援コメントに選択肢番号を記載してください。次回のエピソードで、あなたが選んだ選択肢がどのような展開を生むのかをお楽しみに!
読者へのメッセージ
「迎えに行く」という言葉の謎が少しずつ浮かび上がってきましたが、まだ多くの真相は闇の中です。どの選択肢も物語を進展させる重要なカギとなります。芹沢と斉藤の次の一手をぜひあなたの推理力で導いてください!
次回、選択の結果がどのような展開を生むのかをお楽しみに!
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