第3話

「皆様!りんご飴!りんご飴はいかがですか〜?」

「皆の者ー!食べんと後悔するのだ!食べるべきなのじゃー!」

「一本銅貨2枚!懐かしの味はどうですか!」


昔……10年ほど前までは、りんご飴は大流行していて、10件に1件あるほど人気だった。

しかし、そのピークを境に、人々は飽きてきて、興味は損なわれていった。

ただ、そんなになかったのなら、久しぶりに食べたい人もいるだろう、と思ったが見当違い。始めて1時間ほど経っているが、売れたのはほんの数本。

このままでは大半が残ってしまう!

すると、遠くから男性がこちらを見つめていることに気がつく。


「そこのお兄さん!一本どうですか?150本限定です!」


と僕が言うと、その人は頬を緩ませ舌なめずりをし、財布を確認しながら寄ってくる。

そのまま買って行こうとしたらーーー。


「ジャン♡」


来たのだ、僕らの宿敵が。


「あっ、ユミリン!待ったんだからな」

「うふふ。ごめんってばー!ところで、何買おうとしてるの?」

「りんご飴。可愛いだろ、キラキラしてて。ユミリンにプレゼントしようとーーー」

「えー、ジャン、こんなの好きなの?」

「えっ?」

「だってりんごに飴塗っただけじゃん?家でも作れそうじゃん」


その会話を聞いて、久しぶりに寛容なサーラも、静かに切れた。


「妾たちのりんご飴は、美味しく食べてもらえるように飴の甘さ、量、風味を変えておるのじゃ。それに、屋台のものを食べると楽しいじゃろう?」


ナイスサーラ。事前に寛容に振る舞えと言っておいて正解だった。


「えーでも売れてないってことは?美味しくないってことでしょ?ねえジャン?」

「えっ。あっ、ああそうだな……」

「「……」」


と言いながら去っていった。


「あんのやろーーー‼︎妾が優しく言ってやったのにー!」

「サーラ、こうなったら最終手段だ」

「おお!さすがリクじゃ!そんなものを用意しておったのか!」

「できれば使いたくなかったんだが……。サーラ、しばらくりんご飴の神になってくれ」

「……バカになったのじゃ?」


正真正銘バカのサーラに言われたのは不服で仕方がないが、それもしょうがないほど、自分でもアホらしい策だとは思っている。


「誰かさんによると、世が厳しい時、物好きの興味を引くしかないらしいからな」





◇◆◇◆





「ほお、これが下界なのじゃ?」


そんな屋台の屋根の上に乗るサーラの一声に、通り過ぎる人々がチラリとこちらを見る。


「いいよサーラ、その勢い」

「ふふっ、妾のりんご飴世界はもっと幸せそうな世界なのじゃ」


前にも思ったが、サーラは壊滅的にネーミングセンスがない。


「りんご飴を食べんか?りんご飴は世界を救うのじゃ!」


その一言で、あっこれやばい人たちだ、と言う目をして一気に観客が減る。


「サーラ!宗教じみた演説はやめて!」

「はぁ?妾は本心で言っておるのじゃ」

「……」


するとサーラは、屋台の屋根から降りて、数メートル離れた場所にいる少年にりんご飴を差し出した。

その少年の服はボロボロで、目も虚だった。


「お主、食べんと妾が祟るのじゃ」

「ぼくに……⁉︎」


そして少年は嬉しそうにりんご飴にかぶり付いた。


「美味しい……!」


少年の顔に笑顔が咲いた。

その様子を見ていた高貴な服を着た優しそうなおじいさんが、「私に一本くれ」と銅貨を4枚差し出した。


「あ、あの、銅貨2枚でいいですよ」

「いや、あの少年の分も私が買おう」


なんて素晴らしい人なんだ、と感銘を受けながら、近くにあったりんご飴を差し出した。


「あのっ、私にも……」


そうして、ものすごい人数ではないが、何人かの列ができた。


「どうぞなのじゃ!どんどん並べ!」


サーラの声とこの光景に、思わずほおが緩んだ。





◇◆◇◆





「疲れたのぉ!」


言っていることとは逆に、その顔はとても晴れ晴れとしていた。

なんてたって、完売したのだから。

僕らは花火が打ち上がる前に完売させ、屋台を片付けて穴場の丘に来ていた。

だいぶ高いところまで登ってきたから、街明かりを見下ろす形になっていた。

花火が打ち上がる方向にほとんど木は生えておらず、きれいに見えそうだ。


「まだか?まだなのじゃ?」

「あと少しだと思うけど……」

「うーむ、あっちは人がいないのじゃ。行くのじゃ」


と、全く人のいない方を指して歩いていくサーラを追う。


「そこのお前ら、落とし物だぜ」


後ろを向くと、白髪で活発そうなおばあさんが僕のハンカチを手にしていた。


「ありがとうございます」


そう言って受け取る。

すると、サーラも振り返り。


「どうしたのじゃーーーってばーちゃん⁉︎」

「ばーちゃん……ってこの前言ってた⁉︎」


改めて、ばーちゃんと呼ばれた人を見る。

ばーちゃんと呼ばれるには、見た目はシワが少なく若い。


「あんた、私のことを広めるんじゃないよ!犯罪者なんだから」

「犯罪者⁉︎」


思わず口にしてしまい、「ばーちゃん」に鋭く睨まれた。


「私は粗悪に扱われている奴隷や子供を解放するような依頼を受けているからね。基本的に人様の奴隷をどうにかするのは犯罪さね。指名手配なんだよ」

「なるほどーーー」

「それよりどこに行ってたのじゃ!ばーちゃんがおらんせいで貯金がそこをついたではないか!」

「いや私は銀貨30枚置いてっただろ。二ヶ月の食料くらいは余裕であったはず。お前は金遣いが荒すぎる」

「えっ、てことは、服を買ってお金を使い果たしたっていうのはーーー」

「高い洋服買いすぎたってことだな」

「う、嘘でしょ……」

「ふふ、そういうことじゃ」

「お前……」

「じゃれあってるとこ悪いが、私はお暇とするさね」


すると、魔法を使って一瞬で姿を消した。


「ばーちゃん!まだ言いたいことあったのじゃ……」


そう呟いたサーラの言葉は、冷たい風に乗って消えて、その場にはなんとも言えない空気が流れた。

そのまま、人気がないところまで歩いていく。


「あの、さ」

「なんじゃ?」


りんご飴を頬張るサーラが、前を向いたまま言う。


「瞳、見ててよかった、かも」


そういうと、サーラは体ごとこちらを向いた。

その露草色に輝く瞳をまっすぐと見つめた。


「……どういうことじゃ」


その顔は、少し赤くて、りんご飴を咀嚼する口も止まっていた。


https://kakuyomu.jp/users/banmeshi/news/16818093089915581324


「もし、角を見ていたら、サーラは話しかけなかったでしょ、僕に」

「ッッ!」


少しはにかみながらいうと、サーラは今にも噴火しそうに赤くなりながら、何かいう。


「わ、妾はそんなお主が……」


口を開いた時に、パァンと、僕の後ろで何か音がした。

花火だ。


「何か言った?」

「なっ、なんでもないのじゃっ!」

「……そう?」


うむ、と頷くサーラを確認して、振り向くと、星空に散らばるように花火が落ちていく。

星に紛れ、キラキラと瞬きして、すぐに消えていく。


「綺麗だね」

「そうじゃな」




これからも、僕らの奮闘は続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界を救うりんご飴はいかが? いなずま。 @rakki-7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画