第2話
母さん、父さんへ
冬に向かって冷えてくる頃合い。元気にやっていますか?
ところである友人と、星祭りでりんご飴屋台を出したいと考えています。
そこで、母さんと父さんの畑でとれたりんごを使わせてもらいたいです。
本番の数量は150個。それから、この前送ってもらったものを試作品にして試したいと思っています。
お金はきちんと支払うけれど、苦労をかけてしまいすみません。
一生懸命やりますので、どうかよろしくお願いいたします。
リク
ああ、どうしてこうなった。
『来月の星祭り、リクも一緒にりんご飴屋台を出すのじゃ!』
『え?やだよ』
『うっ、りんご飴は妾を元気に、人々を元気にするものなのだ。りんご飴は衰退しつつあるが、妾は子供らにそれを味わってもらいたいのじゃ』
『いや、ごめん』
『うっ、美少女が目をキュルキュルにして言ってるのに、どうしてじゃ⁉︎』
『それでさっき騙されたからね。悪いけど……』
『実家からの仕送りに頼る冒険者、という肩書きが欲しくなければ、妾に従うことじゃ』
『うっ……』
と言うわけである。
「これでいい?」
「良いのじゃ!でも、150って少なくないかの?」
「確かに、りんご飴はこの辺りでは少ないから、たくさんの人が食べたいと思うんだけど、数量限定って言われると、人は買いたくなるんだ」
「なるほど?なのじゃ。絶対に1番人気の屋台になるのじゃ!」
そして、僕らは(ほとんど僕)着実に準備を整えていった。
星祭りは、年に一度、彗星が見える日。
昔は静かに鑑賞する祭りだったらしいが、だんだんと大きく盛大な祭りと化して行ったらしい。
現在では、毎年、個人も企業も含め、約300ものの屋台が出る。
田舎から続く都会までの道まで、ぎっしりと並べられている。
気軽に屋台を出すことができるので、一般人もよく出している。
逆に言うと、その中から目立つことは難しいのだが、僕としては安泰に終わって欲しいところだ。
「そういえば、どうしてサーラはりんご飴が好きなんだ?」
今更だけど、と付け加えて聞いてみる。
「ふふっ聴きたいかの?」
「いやぁ、まあ、世間話の一環として?」
「はぁ、釣れんのぉ」
とは言いつつも、サーラは熱く語り始めた。
「妾の親は誰か分からず、妾は施設育ちだったのじゃ。この角のせいで施設ではいじめられとったなぁ」
確かに、角は魔物の象徴だと言われることがある。
僕はなんとも気に留めなかったが……。
「そんな時に、近所で祭りがあったのじゃ。それが星祭りじゃ。金は持ってなかったが、そこにくる人たちの表情を見るのが好きだったのじゃ。その頃は妾も流石にこんなべっぴんじゃなくて、ガリガリだから、だーれも話しかけてくれんかった」
「……」
「そんな時に現れたのが、ばーちゃんじゃ」
「ばーちゃん?」
「そう、ばーちゃんは、妾を見ての第一声が「きっちゃねぇのぉ」でのぉ」
と面白おかしそうに笑うサーラを見て思う。
ーーーその人、大丈夫なのか?
「それまでも、何度かそんな声を聞いてたんじゃが、ばーちゃんは違ったのだ。お前を見てると虫唾が走る、これ食べぇ、ってりんご飴を渡してきたのじゃ」
「ーーーああ、それでりんご飴」
「そうじゃ。ばーちゃんは、毎年りんご飴屋台を出してて、その時は休憩の時間だったらしいんじゃ」
「そう、なのか」
「だから、妾はりんご飴信者なのじゃ。それに、りんご飴って、高級そうで、なんだかんだ、庶民にも手が届くじゃろう?それが、また良いと思ったんじゃ」
「なるほど……」
これまでふざけてきたサーラとは想像できないほどの顔に、僕は大した反応をすることはできない。申し訳なさが込み上げてきた。
「なんか、ごめん……」
「良いのじゃ、お前は、ばーちゃんと同じことを妾にしてくれた」
「え?なんかしたっけーーー」
すると、サーラはにまっと笑って、自身の瞳を指した。
「ばーちゃんとリクは、初めて妾を見た時、角ではなく瞳を見ていたのじゃ」
「ーーー。そんな、大したことじゃないよ」
「リクにとってはそうかもしれないが、世の大人はそうはいかんのじゃ」
「……そっか」
自分でも無意識だったので、少し驚きつつも、本当に嬉しくて、街中に自慢したいほどの高揚感も、確かにあった。
そして、そのばーちゃんが、行方不明と、後で聞いた。
◇◆◇◆
ーーーそうして、星祭り当日。
店の組み立ては案外すんなりと終わり、りんごや器具も全て揃っている。
だがしかし、どうしようもない問題があった。
「売れん!」
サーラの台パンで、器具がカチャと鳴った。
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