世界を救うりんご飴はいかが?

いなずま。

第1話

ーーーその少女は、突如として現れた。


「妾はりんご飴に愛されし者!世界をりんご飴教支配するのじゃ!」

「ーーー?」


少女の瞳は青く、おとなしそうかと思いきや、とても騒がしい。

銀髪でよく見ると頭には角が生えていた。

周りの人々は、関わりたくないと言った様子で歩道の中心で叫ぶ少女を避けて歩いていく。

僕もそうしよう、と心に決め進む。

のだが。


「おいそこの!」


ああ、誰かが引っかかったのだな。可哀想に。

と思いながら前を向き歩く。


「妾に指名され光栄に思うことじゃ!」


本当に無視して良かった。

心の中で安堵していると、肩に誰かの手がのった。


「無視するでない!」

「………は?僕⁉︎」


周りの人から哀れみの目を向けられ、そのことを悟ると、僕の額の血の気が引き、汗がどっと湧き出す。


「知り合い……じゃないんですよね?」

「うむ、初対面なのだ」

「じゃあこれで失礼しますーーー」


肩にある手を振り払おうとしたら。


「ダメなのじゃ!今日からお前はりんご飴信者1号なのじゃ」

「い、いやです!ダサすぎじゃないですか⁉︎」

「だ、ダサいとな……?」


ダサいの一言が刺さったのか、しゃがんでうなだれる。

これは絶好のチャンスだとばかりに僕は口と足を動かした。


「では僕は帰りますね!」

「うっーーー」

「?」

「妾は家がないのじゃ。今日食べるものもないし、お金も服を買うのに使い切ってしまった。そんなか弱い少女を見捨てるような薄情者なのか、お前は……」

「僕だってお金ないんだし、お金持ちの人のところに行けば……」

「捨て猫のように拾ってと懇願すれば良いのか?そんなで済むほど世間は甘くないのじゃ。だからおかしなことを言って、物好きの好感を買わねばならぬ。だがしかし、それでも誰も話しかけてくれんかった。だから優しそうなお前に話しかけたのじゃ……」


目を潤ませこちらを見つめる少女に、情が動かされてしまい。


「わ、わかりましたよ……。今夜だけですよ」


後で、後悔するとは、わかりきってはいたのだが。





◇◆◇◆





モンモンモンーーー

静かな部屋に響く咀嚼音。

しかし静かなのは一瞬だった。


「おまえー!風呂まで入らせてご飯用意して、席外した瞬間に僕のまで食べんのかよーー!恩知らずめー!」

「なんとでも言うが良い!ただ飯が食いたいのじゃあぁぁぁ!」


執念と執念の戦い。

僕は少女を左手で押さえつつ、僕の皿を高く上げる。


「ふっ」


勝った気になり、僕は少女を鼻で笑って見せる。

が、少女はそれに怒り、思い切り僕の腕に噛みついた。


「グギギギギーーー」

「いてぇっ!マジかよっ⁉︎」


と思いながら腕を引っ込める。

その途端に少女は華麗な動きで僕から皿を奪い、僕を警戒したまま全て平らげてしまった。





◇◆◇◆





「……名前は?」

「妾はサーラ!りんご飴に愛されし者!」

「だからりんご飴ってなんでだよ……」


りんご飴が美味しいのはわかる。とてもわかる。

だが、拝めるほどのものではないだろう。


「僕はリク」

「ほお!明日も飯を頼む!」

「……僕、まだ夕食のこと根に持ってるから」

「いやぁ、そんなちっぽけなことは水に流して、仲良くやろうではないか!」

「いざとなったら追い出せるけど?」

「妾はA級冒険者なのじゃ」

「……」


不覚にも、僕はB級である。戦えば負けるだろう。


「はぁ、明日には出て言ってよ」


と言いながら、僕は実家からの仕送りの段ボールを開けた。


「にょ?」


それを、サーラが覗き込んでくる。


「りんごなのじゃー!」

「ーーー」


そういえばりんご飴好きだったな、と思い冷や汗が流れていく。

そして、どうなったかといえば。


「再来月の星祭り、リクも一緒にりんご飴屋台を出すのじゃ!」

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