第二話『いちご』

 雨打つ屋根。

 庭付きの一軒家。


 小ぶりの段ボール箱を抱えた中年男が帰宅する。

 扉を抜け、石畳の玄関。

 男の履く革靴がコツコツ音を立てる。

 その度に、灰色の石畳は黒色のまだら模様をつける。


「おかえり、あなた」

「オギャ! オギャ!」

 母と、その胸に抱かれる赤子。


「ただいま」

 夫は石畳の上で靴を脱いで、一段上がる。


「あらあなた、いちご買ってきたの?」

 妻は箱を見て、そう言った。


 箱には、【長崎県産 ゆめのか】と印字がある。


「いや、ちょっと……」

「ん、いちごじゃない!? そういえばなんだかちょっと臭うわね?」

「怒らないで聞いてほしいんだが……実は、犬を拾ってきてしまった」


「あらまぁ、大変!」

 という、母の頓狂とんきょうな驚きの声を聞いて、赤子は、

「ギャハハハハ!」

 と、笑う。


「でも、華乃かのは喜んでるみたいね」

 妻は、我が子を揺さぶって、あやす。


「ああ。それに仔犬も……」

「クゥウン」

 父と、その胸の箱に収まる仔犬。


「犬種は何かしら? 顔は柴犬にしか見えないけど……」

「そうだなぁ。でもちょっぴり胴が長い気もする、コーギーみたいに」

「確かに! じゃあ……」


「「しゔぁあぎぃ??」」

 夫婦は口をそろえてそう言った。


 そして夫は、一家で仔犬を育てる許しを妻から得た。

 仔犬は、いちごの品種「ゆめのか」から取って……


 〈ユメ〉と名付けられた。

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