第2話 プロローグ ミエラ
鳥のさえずる声、木々の揺れる音、暖かい日の光
ミエラは気持ちの良い朝の気配に誘われ、ゆっくりと目を開けた。
照りつける日の光はいつもの朝だった。昨夜の出来事は夢だったと思い、歓喜の気持ちで飛び起き周りを確認したミエラの希望は打ち砕かれた。
飛び込んできたのは昨夜の最後にみた光景と何なら変わらず、ミエラの近くには自身が魔法により吹き飛ばした家の残骸が散らばっていた。
レミアやノストールの姿は見当たらず、レミアがノストールを包んだ木の根も跡形もなく消えていた。
ミエラは夢ならどれだけ良かったかと、父を失った悲しみを思い出し、暫くその場で泣きじゃくていた。
ミエラの中には激しい後悔と喪失感が溢れ、父に対して些細な喧嘩で言ってしまった言葉やしてやれなかった事等、頭には全て後悔の場面しか浮かばなかった。
ミエラがその場で横になり、虚ろな目から涙を流し放心していると一羽の青い鳥がミエラの近くに降りたった。
鳥はまるで何か訴えるようにミエラの髪を小さなクチバシ啄んできた。
ミエラは不思議な行動をする鳥に応えるよう、ゆっくと身体を起こし立ち上がると、鳥はミエラの周りを飛び回りまるでついてこいと言わんばかりミエラの少し先の木に止まり、ミエラが来るのを待っていた。
ミエラは自分のこれからの事や父の事を考えるが辛く逃げるよう鳥の誘導に従った。
鳥は森の奥へとミエラを誘導しているようだった。
時折ミエラが父を思い出し、泣き出して歩みを止めた時でも、鳥はミエラを慰めるよう近くにきて、またミエラが歩みだすのを待っていた。
やがて森を知り尽くしたミエラもみた事がない場所にたどり着き、ミエラはその光景に目を奪われた。
周りは色鮮やかな花々が咲き誇り、その中心に、今まで森に入った際に見たことが無いのはおかしいはずの大樹が存在していた。
花々や大樹に目を奪われていたミエラはいつまにか青い鳥がいなくなり、目の前に一人の女性がいる事に気がついた、ミエラは驚きはしたが不思議とその女性に親しみを感じていた。
何故ならその女性は昨夜自分を助けてくれた女性だったからだ。
ミエラが女性を見て呆然と立ち尽くしていると女性はミエラに言葉を投げかけてきた。
『ごめんなさい』
悲しい表情を浮かべ謝罪を述べる女性の一言は何に対してなのか理解してなかったはずのミエラだが、自分でも驚くほど早く言葉は出てきた。
『遅いよ…』
震える声で発していた言葉には様々な意味が込められていた。
既にミエラの中では不思議と女性が誰で、言葉の意味は何なのか理解できていた。
何故もっと早く来てくれなかったのかと、何故ノストールが森に現れた時に対処してくれなかったのか、自分は悪くない、そんな罪悪感を消すように目の前の女性に言葉を続けた。
『何で、、何でもっと早くきてくれなかったの!何であいつがここに来た時に、、やっつけてくれなかったの、、!何で、、何で、!』
ミエラは言葉と共に涙を流しながら、目の前の女性に気持ちをぶつけた、女性は悲しそうな顔でミエラを見つめているだけだった。
ミエラが言葉を止め、震えて俯くと女性はミエラに優しく語りかけてきた。
『彼の者…ノストールがこの森に来たのは知ってました、しかし私は誓いにより、森に住まう生き物の力を使い妨害するしかできませんでした。』
ミエラは力ない言葉で女性の言葉を拾った
『誓い、、?』
『そう、誓いです。ノストールが貴方に結ばせた力です。私達神々は他者と誓いを結ぶ事で絶大な力を得ます、それは秩序と混沌に抗うほどの…ノストールは貴方と誓いを結ぶために、歪みの力で貴方の持つ嫌悪感等を歪め近づきました。』
ミエラは話を聞きながら、最初から自分は言いようにされてた事実に怒りを覚えると共に、自身が望んでノストールと誓いを立てた訳でないことに一つ救われていた。
『そして私もまた誓いを立ててました、あなたの父と母にです』
ミエラは今、女性に言われた言葉を何度も頭で繰り返した、そして改めて女性をみる、美しい女性の姿は自惚れでなければ自分によく似ているのだ。
『かつて貴方の母はわたしに誓いを立てました、貴方の父を助けてほしいと、その為なら身体を依り代にすると…その後、現れた貴方の父は私の姿みて怒り、私に誓いを立てました我々の前に姿を現すなと、そして私は誓い立てました…貴方達がこの森から出ないようにと』
ミエラは目の前の女性、、母の姿をしたレミアに対しても怒りが湧いた、しかしその湧き上がった怒りもレミアの顔見て直ぐに収まった、今のレミアの顔とても悲しくそしてその目から涙が溢れていたからだ
『貴方の母はとても強い魔法使いでした、そして美しかった…私は彼女になりたかった。だから誓いを結び貴方の母と一つになりました。しかし私の心はレミアであり、貴方の母でした。徐々に貴方の母がレミアになると同じく私は貴方の母になっていた』
ミエラはただ目の前のレミアをみていた
今目の前に母の姿をした女性は、人のように涙を流し、ミエラに話していた
『貴方の父が侵された病はただの病ではありません。とても強い神の力です。その病をかけた神はあなたも知るノストールです』
『ノストールはかつて、あなた達がいた大陸に顕現しそして貴方の母に目をつけました、貴方の母と父は何とか神の結界を破り、この大陸に逃げて来ましたが呪いの力に蝕まれ…私と誓いをたてましたが、それでも呪いそのものを消し去る事はできず抑える事が精一杯でした』
『私は貴方の父が怒り、わたしの前に来た時に悩みました。貴方達の前に現れない誓いは、貴方の母との誓いである貴方の父を助ける誓いから遠ざかっしまう。そのために森からでない誓いを立てましたが、貴方の父は、娘まで奪う気かと怒り、私はその姿をみて、痛む心で貴方の母と一緒なっている事を受け入れました』
ミエラは混乱した頭で何とか話を整理していた。
そんなミエラをみてレミアは時間を置いてから話の続きを始めた
『暫く私は貴方達を見守り、守れる範囲で力を使用していました。そうして会えない事悲しみながらも成長していく貴方をみて喜びを感じてました…会えなくても見守れるならと…そんな矢先ノストールがこの森来たのです。本来であれば奴はこの結界のある森に入って来ることはできません。しかし奴は貴方の父にかけた呪いの繋がりと、何処にでも存在しているモノグの身体を使い森に侵入しました。わたしは力を使い奴を妨害していましたが、最悪の場面になってしまったのです、奴は貴方に出会い、そして私は貴方前に出られず、貴方と奴と間に誓いが結ばれました…奴は歓喜しました、そして弱った自分の前に何故私が現れないのか考え、答えに辿り着きました。それがあの夜の出来事です』
『奴は、誓いを解釈し、身体を良くするという名目で貴方の父を意志のないものに変えましたが、それにより貴方の父は魔法により事を終え、皮肉な事にそれが異形に変えられた貴方の父にとっての、身体を良くする願いになりました。奴は誓いを勘違いしていたのです。それは…多くの神々もそうですが誓いは片方が思ったやり方では上手くいかない事が多い、ノストールの願いは叶わず誓いは果たされませんでした。そうして貴方の父が死に私は誓いの相手がいなくなった事により貴方の前に現れる事ができるようなったのです』
ミエラはレミアの話を聞きいくつかの疑問を問いかけた
『どうしてノストールはそんなにお母さんを自分のものにしようとしたの?他にも魔法使いや綺麗な人はいると思うのにわざわざ大変な大陸を渡ってまで…』
ミエラの問にレミアは
『まずノストールが大陸を渡るのは難しい。神の世界に大陸など無いようなものですが、一度顕現して身体を得たら容易ではないです。ノストールがどうやってこの地に顕現したかまでは、私も分かりません、そしてあの姿も…本来あり得ません。奴はモノグに顕現していたが昨夜はまったく別の姿になっていました。奴の眷属でもなければ異形の姿に…ごめんなさい、今の私に答えるすべありません。それと何故貴方の母に執着したのかはノストール自身も最初は諦めていたと思います、貴方達が今までの期間過ごしていて奴が現れなかったのが答えかと推測してます、何故今になって来たのかは、私にも分かりません。ですが最後に奴が残した言葉がその答えになってくるのでしょう…』
〘彼の地で人は神を生み出した〙
最後に、ノストールが残した言葉だミエラもその言葉を聞いていた。
人が神を生み出した、、そんな事が出来るのかミエラにはわからなかったが、いまその言葉の真意を知ることは出来なかった。
ノストールが何故母を狙ったかのか、何故母が手に入らないと自身を狙ったか、ノストールの言葉と結びつけるすべはなかった。しかし今の空っぽの心にはその謎すらも自身の生きる目的にできた
『最後にもう1つだけノストールは生きてるの?』
レミアはミエラをじっと見つめ、始めて答えに渋ってる様子が伺えた、自分が発する言葉でミエラがどんな行動をするか、考えそれでもゆっくと答えてくれた
『生きています。神を殺すのは難しい…出来なくはないが非常に難しいのです、私が知る限りは神を信仰するものがいなければ、神はこの世に現れる事ができません。存在はしてますがこの世に現れる事ができない為事実上の死です、ただし一人でも信仰するものがいれば神はこの世にいれます、だから神はまず眷属を作るのです。もう一つは死の神の力です。死の神自身は事象として世界と溶けあい死の概念となりました、しかし死の神から生まれた神々は、微力ながらその力を宿しています。その力を有してる物を使えば可能でしょう。最後に魔法です。魔法は世の全ての神の信仰です勿論死の神の力も使えます。しかしそれには数多くの命とそれに対する理解が必要となり不可能に近い』
ミエラはノストールが生きてる事は確認して、自分の生きる目的として、今の悲しみから逃れるようノストールの打倒を誓った。
ミエラの中には確かに復讐したい気持ちはあった、しかしその思いはただの逃げだった。
そんなミエラをみてレミアは見透かすように
『…あなたの目的はわかります。そしてそれが生きる目的になるなら私はその手助けができます。ノストールは今回引きましたが、目的だった貴方の母は奪えない事を知り、貴方を狙うでしょう、、』
しかしミエラは助言を申し出るレミアを信じきれてはいなかった。
今まで神とは人から外れた存在と思っていたが目の前にいる神は人間臭かった、母の姿の為だろう
母の記憶はない、しかしミエラには目の前の女性が母だったと確かに感じている
その母の身体を使い自分を騙すのは容易だろうと
ミエラの考えを読み取ったようにレミアは口を開いた
『私が貴方を助けるのは、貴方が大事だからです。貴方の母と一つになり私は今ではレミアであり、貴方の母、、アルミラなのよ ミエラ、、』
悲しそうにそして優しげに微笑む母の姿をした神をみてミエラ考えを決め告げた
『誓いを』
レミアは驚きと悲しみが入り混じった表情でその言葉を受け取り
『誓いは必要ありません。私は出来る限り貴方に力を貸すつもりです』
しかしミエラはその申し出を断り改めてレミアに伝えた。
もし先程、目の前にいる神が流した涙が本物なら
ミエラを助けてくれるだろう、だがミエラは目の前の神を信じきれておらず、既に母の身体を奪っている神なら誓いを結ぶ事で必ず助力を得られると確信していた。
『誓いを、、私を助けると、、ノストールを打ち倒す為の手助けをすると』
そんなミエラの様子をみてレミアは諦めたようにミエラの誓いを聞き入れた
『誓いましょう私は貴方がノストールを打ち倒す為の手助けをすると、、そして誓いは双方必要となります、私は貴方に願います』
ミエラは誓いの言葉を聞き取り、レミアからの願いを待った、何が来ても空っぽの自分ならそれすらも目標に生きていけばいいと
そんなミエラを見て、レミアは優しく悲しみの表情でまた涙を流しミエラに、人に懇願するよう言葉を絞り出した。
まるで伝えるのが愚かで恥ずかしい行為のように
『貴方がその願いを叶えるまで、母と呼んで欲しい』
ミエラとレミアは誓いを立てた
レミアはミエラにあらゆる知識を与えた、其れはレミアとしての経験と母としての経験からだった
ミエラは誓いを守り、レミアを母と呼んだ
ミエラの中でレミアもまた母の身体を奪った神ではあったがミエラの中では時折見せる表情から確かに母を感じていた。
自身が旅立つその時までレミアはミエラの母であり続けた。
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