夢の旅 シューティングゲーム

第1ー1夜 ようこそ、夢の旅路へ

「あなたが創造する夢はなに? 」


 今は俺のターン。しかし、少女の唐突な問い。寝ぼけている俺。時計の不気味な音。そう、圧倒的膠着状態!!

 すると、少女は無言で何かを生成した。コップ、しかも水が入っている。俺のために用意してくれたのだろうかありがたいことだ。人の愛情にハイエナのような飢えていた俺は、すかさずコップを受け取ろうとした。が、


「えい。」


「ひぎゃああああああああーーーーーーーーーーーー!!! 」


 どうやら俺のターンは時間切れでスキップされたらしい。この少女は能面のような顔でのそっと近づき、氷水をかけやがった。


「何をしやがるこのクソガキ!初対面だぞ!?親のしつけはどうなってやがる!」

「あなたとほとんど歳は変わらない。クソガキとは心外。」

「違う違うそうじゃない!」

「じゃあ、親のこと?親はいない。」

「ふむふむ、それはかわいそうだな……ってちがーーう!! 」

「降参。」(白旗フリフリ)

「白を切るナ~~、説明責任をはたせ~~ 」


 ひらひらと交わされ、ついには国会のヤジ程度の言葉しか絞り出せなくなっていた。


「私は暑い夏に苦しむところを労おうとした。善意。恵。おもてなし。僥倖。あなたは感謝すべき。」


 なら水を渡すだけでよかったのに……と愚痴をこぼしつつもツンデレ的可愛さとありがたみを感じた。が、


「というのは建前ですぐに起きて質問に答えないあなたが悪い。報復にいたずらをしただけ。あなたが悪い。」


 さらっととんでもないことを言うなお前!ガンジーも殴ってくるぞこんなの……てか俺の謝罪からの逃げ道は塞がれてたってことっ?とあっけにとられつつも、結局“オトナ”の俺は事態を収めるべく謝ることにした。


「それはすまなかった。寝ぼけてたし、質問が唐突で頭が働かなかったんだ。許してくれ。」

「勝った。許す。」


 前言撤回。こいつを殴らせてくれ。


「それで、質問の答えは?聞かせて。」

「すまん、忘れた。」

「ひどい。」


 確かにひどい。さっきまで罵倒していたのに、俺だって駄目じゃないかっ……なんと愚かな、なんと滑稽な人間なのだ――


「愚かな人間よ、我の導きに従うのだ。」


 少女から神のごとき輝きと、春の陽のあたたかみを放ちながら俺の前に立ちふさがる。俺はあまりの神々しさ猛烈に感動していた。


「ではもう一度聞く。あなたが創造する夢はなに?」


 俺は、困ってしまった。まるで、フェルマーの最終定理を出題されたような気分だった。夢なんて今まで偶然の出来事で、自分の思い通りに見ることなど無いからである。というかそもそも夢を操作できる奴なんて存在するのだろうか、居るなら今すぐここにきて教えてくれっ!


「なんでもいいんだよな……」

「なんでもいい。」


 こいつ、抑揚のない話し方で腹の奥が読めないんだよな……たまにドヤ顔を見せる程度しか表情も変わらない。その割には煽り性能だけはある。不気味で仕方がない。

 こうして、この足りない頭をこね繰り返すこと10分。記念すべき第一回目の夢が決定する!!!


「マルチプレイシューティングゲーム!」


 俺には一つ憧れがあった。某マルチシューティングゲームのような世界で、英雄の称号を得たいと。ゲームはやりつくし、実際になってみたいという安直な発想は誰でも思いついたことがあるだろう!

 俺が高々に宣言をすると、少女は一見何の変哲もない本を一冊取り出した。よく見ると、題名のないまっさらな本であった。


「ここに題名を書いて。」

「なんでもいいのか?」

「なんでもいい。」

「いきなり死んだりしないよな……」

「善処する。」


 なんてこった、俺の命運は己のネーミングセンスに賭けられてしまったではないか。ていうか、善処ってなんだよ、俺はこんなところで死にたくないんだ。


「わかった。『世界大戦英雄伝説 宇津田陽呉』これで、お願いする!」


 当たり障りのない題名であれば問題はないだろう。もしこれで死んだら欠陥だ。

 本を渡すと、少女は目をつむり何か唱えようとした。


「Jrgriguhdpv, sohdvhpdnhklpdkhurrizdu」


 某漫画の殺し屋でしか認識できないであろうあまりの早口呪文を唱え終わったその刹那、部屋一帯が崩壊した。この状況にもかかわらず、少女は何か忘れていたかのような顔をしやがった。まさか、死ぬとか、この夢から脱出出来ないとかやめてくれよ。


「忘れていた。」

「なんだよ!速く言え! 」

「宇津田陽呉。ようこそ、夢の旅路へ。」


 この言葉に、俺は真夏の自動販売機の前で財布の中に最後の百円玉を見つけたような僅かな安堵感を覚えた。















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