夢の旅

クソエイム

プロローグ

 男、部屋に一人。布団に籠りつつ、天井に張り付くのっぺらぼうとにらめっこの最中である。このけったいな様相とは裏腹に、外は見事な日本晴れに久々の学校にココロオドル小学生達の健気なあいさつが連なる。


「ハア……、何してるんだか…… 」


 重い空気に重い溜息。部屋の一角はチョウチンアンコウでも出てきそうな深海と化していた。

 宇津田陽呉16歳。精神病につき不登校の男子高校生である。俺は入学直後は難なく高校生活を送っていたものの、文化祭の病欠から始まり、クラスで微妙な立ち位置、文化部で幽霊部員化、起死回生の一発をテストに賭けたが返ってきたのは赤いバツ印の絨毯である。夏休み?火の玉ストレートはよしておくれ。結果、心が病み今に至る。

 さて、不登校が巣食う深海からの中継に戻そう。彼は外から聞こえる元気なあいさつに哀愁の意を浮かべた。


「俺にだってこんな健気な幼少期もあったさ、あの頃は友達と毎日遊んだし、クラスでもそこそこ中心的だったし、恋だってした!振られたけど! 」


 何を思ったのか布団をふっとばして立ち上がる。


「中学も、部活と勉強頑張って志望校に合格したんっだっ!なのにこの仕打ち!俺は悪いことなんかしてないではないか!何という不条理!自分と世界の狭間に君臨する不条理が俺をこうもみじめにしたのだ!!! 」


 ヒトラーもびっくりするであろう気迫のこもった大演説は滑稽なことに一人部屋の自分の姿が薄ら見える窓にスルーされるのみであった。ゾウを目前としたアリ、もしくは世界を敵に回した小国のような無力さを感じたのか、またしても人口1の布団帝国に籠城することをこのボンクラ皇帝はお決めになった。


「布団とスマホは俺の味方~~ 」


 かくして、ここに廃人皇帝爆誕!!この日は、寝て食って寝て食ってたまに演説を繰り返しとうとう深夜になってしまった。


「寝れん。」


 当たり前である。しかし、このぼんくらでも昼夜逆転の習性を自身のカードには書かれたくないらしい。★1、よくて★2のキャラ確定であるが。


「ええっと、『死ぬほど眠れる催眠術、アラーム付き』…これだ! 」


 マルチ商法顔負けのあまりにも胡散臭いを早速サイトを開く。すると奇妙な案内が表示された。


「名前と起床予定日時を記入してください。または、dボタンをおしてね!」


 少し考えた。俺も一応人間なのだ。このサイトが信用に足るかどうかくらい考える。そう、ここは



「dボタン一択!今を大事にしなきゃ!」



 君たちは思っただろう。バカである。ホームラン級のバカである。バカ世界選手権優勝候補筆頭と。

 こうして始まってしまった『死ぬほど眠れる催眠術』。効果の程は、なんと某少年探偵御用達の麻酔銃を撃たれたかのような眠りの早さであった。これで、昼夜逆転は免れられた…

 しかし、非情にもすぐに起きてしまった。まるでどっきり告白に引っかかったかのような気分を抱きながら目を開けると、そこには俺を閉じ込めんとそびえる本棚と、どっかのおじいさんが自慢しそうな古時計が置いてあり、そしてひとりの少女がいた。

少女がつぶやいた。


「君が創造する夢はなに? 」






























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