夢の旅〜不登校、夢の世界にて斯く成長す〜(旧)

クソエイム

旅のはじまり

第一夜 闘争

第1―1夜 苦悩の末に

 君たちは、夢の世界に入りたいと思ったことはあるだろうか?


 寝ているときに、脳内を駆け巡る夢の世界。皆一度は願ったんじゃないだろうか?恋愛、ヒーロー、復讐、ホラー、その他諸々……

 

 だが、実際はそんなことは叶わない。すぐにでも掴めそうで、掴めない。本当は遠く遠く離れた、縁の無い世界なのだ。


 じゃあ現実の世界で夢のような人生を送るしか無い。が、現実はそう甘くはない。夢なんてものは、俺達とは縁もゆかりも無い虚構なんだ……

 

―――――――――――――――――――――――


 スマホのアラームがけたたましく鳴り、朝の訪れを伝える。俺はゆっくりと手を伸ばし、アラームを止める。だが、それきりだ。


 男、部屋に一人。俺は布団に籠りつつ、何か落書きがしたくなるほど真っ白な天井とにらめっこの最中である。カーテンは閉め切っており、明かりはパソコンの画面から出る光のみだ。


 このけったいな要塞とは裏腹に、外は青と白で鮮やかに彩られ、酷暑をもたらす太陽が輝く晴空の下で、久々の学校に心躍る小学生達の健気なあいさつが聞こえる。


「ハア……、一体俺は何してるんだか…… 」


 重い空気に重い溜息。俺が眠る薄暗い部屋の一角は、チョウチンアンコウでも出てきそうな深海を思わせる程に陰鬱なオーラを充満させていた。


 宇津田陽呉16歳。精神病につき不登校の男子高校生だ。

 高校デビューにはうまく行ったはずなのに、様々なやらかしを経て華々しい高校生活が一気に音を立てて崩れ去ってしまった、一人の悲しき男さ。夏休みはどうしてたんだって?おいおい、火の玉ストレートは辞めておくれよ……


 そんなこんなで、心が病み今に至る。


 さて、こんな不登校が巣食う深海からの中継に戻そう。俺は外から聞こえる元気なあいさつに哀愁の意を浮かべる。


「俺にだってこんな健気な幼少期もあったさ、あの頃は友達と毎日遊んだし、クラスでもそこそこ中心的だったし、恋だってした!振られたけど! 」


 何を思ったのか、俺は自分の上を覆っていた布団をふっとばして立ち上がる。


「中学は、部活と勉強頑張って志望校に合格したんっだっ!なのにこの仕打ち!俺は悪いことなんかしてないではないか!何という不条理!自分と世界の狭間に君臨する不条理が俺をこうもみじめにしたのだ!! 」


 あらゆる独裁者もびっくりするであろう気迫のこもった大演説は、滑稽なことに一人部屋の自分の姿が薄ら見える窓にスルーされるのみであった。


 ゾウを目前としたアリ、もしくは世界を敵に回した小国のような無力さを感じ、俺はまたしても人口1の布団帝国に籠城することを決めた。


「布団とスマホは俺の味方―― 」


 かくして、ここに廃人皇帝爆誕!!なんて言ってこの日は、寝て食って寝て食ってたまに演説を繰り返して時間を浪費し、とうとう深夜になってしまった。


「寝れん。」


 至極当然のことだ。あんだけ日中寝てりゃ、脳は勘違いして夜中にピンピンになっちまうさ。


 しかし、いくらぼんくらだと言っても昼夜逆転だけは避けたいのだ。まぁ、それを避けた程度では人類の底辺とは大して変わらんのだろうが……


 そうは言ったものの、俺は昼夜逆転を回避する方法など微塵も知るはずもない。夜食でドカ食い気絶を狙おうかとも思ったが、それは不健康極まりないから辞めておいた。


 困り果てた俺は、自室にある中古で買ったパソコンを起動させた。どうにかして寝る方法を調べようと思い、キーボードを弾く。


 いくつかのサイトを覗いてみたが、今すぐ回避する方法は見つからない。俺は今すぐ寝る方法を知りたいのに……


 30分程調べただろうか?未だパソコンの画面からは煌々と光が出ており、俺を寝させてはくれないようだ。


 だが、ほぼ諦めて乱雑にスクロールしていたとき、一つのサイトが目に留まる。


「ええっと、『死ぬほど眠れる催眠術、アラーム付き』…これだ! 」


 一度は疑ったさ。こんなマルチ商法顔負けのあまりにも胡散臭いをサイト、いつもだったら無視一択だ。でも今はそんなことは言ってられない。


 俺は決意を固めてこの怪しさ満点のサイトを開く。すると、サイトにお似合いな奇妙な案内が表示された。


「名前と起床予定日時を記入してください。または、dボタンをおしてね!」


 名前と起床予定時刻は分かる。しかし、dボタンは全く意味が分からない。ふざけているのか、何かミニゲームでもやれるのか……

 俺は少し考えた。このサイトが信用に足るのか、dボタンは一体何なのか、押しても大丈夫なのか……

 決めるのに数分かかってしまった。俺の出す答えは――



「dボタン一択!今を大事にしなきゃ!」



 君たちは思っただろう。そう、バカだ。ホームラン級のバカだ。バカ世界選手権優勝候補筆頭と。


 今思えば、こんなことしなければ、あんな事態は起こらなかったのだろうと……


 こうして始まってしまった『死ぬほど眠れる催眠術』。効果の程は、一気に体全体の筋肉が弛緩し、まるで魂を吸い取られてしまったかのような、あまりにも速い眠りであった。


 これで、昼夜逆転は免れられた……俺は根拠無き安堵に包まれて目を瞑り、朝に無事目が覚めることを願った。


 しかし、非情にもすぐに起きてしまった。まるでどっきり告白に引っかかったかのような気分だ。さらに、俺はのしかかる倦怠感で動けそうになかった。


 薄ら目を開けて周囲を確認すると、そこには俺を閉じ込めんとそびえる本棚と、どっかのおじいさんが自慢しそうな古時計が置いてある。


 そしてひとりの少女が一人で寂しそうに座っており、こちらの目を炙るような目で見てきた。


 そして、少女の口が動く。


「君が創造する夢はなに? 」


 




























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