第4話「新メニューの挑戦」



「えーと、魔力を閉じ込めた人参のグラッセ、踊るキノコのバター焼き、そして...」


朝一番、一郎は昨夜の実験を元に新メニューを提案していた。


「『踊るキノコ』って、そのまんまの名前でいいの?」エマが首を傾げる。


「『躍動する森の恵み』とかにしますか?」


「それ、なんかお高そう!」


店主は二人のやり取りを聞きながら、昨夜の実験料理の残りを口に運んでいた。


「うむ...これは」店主の目が輝く。「いけるぞ。今日から新メニューとして出してみよう」


「本当ですか!?」


一郎とエマが同時に声を上げる。


「ああ。ただし!」店主が人差し指を立てる。「値段は抑えめにな。うちは庶民の店なんだ」


「はい! 魔力の量を調整すれば、原価も...」


その時、店の入り口で小さな悲鳴が上がった。


「きゃっ!」


朝の仕込みに来た従業員のミーナが、床に転がる巨大な何かを指さしている。


「あ...」一郎は顔を青ざめさせた。


昨夜の実験で魔力を込めすぎたキノコが、一晩で人の背丈ほどに成長していたのだ。しかも、相変わらずリズミカルに揺れている。


「わぁ! キノコさん、おはよう!」エマは大はしゃぎ。


「おはようじゃないよ!」店主が頭を抱える。「これ、どうするんだ?」


「あの、食材として使えるかも...」一郎が恐る恐る提案する。


「よし、『巨大踊りキノコの特売セール』だ!」


店主の決断は早かった。すぐに店頭に看板が出される。


「巨大キノコ!?」

「なんか踊ってない?」

「へぇ、面白そう」


通りがかりの人々が次々と足を止める。


開店前から行列ができた。うわさを聞きつけた冒険者たちも集まってきている。


「魔力を込めた料理なら、ダンジョン探索のスタミナになるかも!」

「こんな珍しい調理法、見たことないぜ」


初めは珍しさから来る好奇心だったが、料理を口にした客たちの表情が変わっていく。


「これ、うまい!」

「魔力が程よく残ってて、体に染み渡るわ」


店内は瞬く間に満席になった。


厨房では一郎とエマが息を合わせて調理を続ける。エマは前日の観察を活かし、見事に魔力を制御しながら野菜を切っていた。


「一郎さん、見てください!」エマが得意げに見せてくれる完璧な切り口。


「すごいじゃないですか。エマさんの料理の才能が開花しましたね」


「えへへ」


...と、そこに一人の客が厨房を覗き込んできた。


「ふむ、これは興味深い調理法ですね」


黒づくめの服に身を包んだ初老の男性。胸には、料理ギルドの銀の徽章が輝いていた。


店主の表情が強張る。


一郎は気付いていなかった。自分たちの料理が、この世界に波紋を広げ始めていることに。

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