第3話 魔力の実験

「よーし、実験開始!」


エマが意気込んで白布(実際は古いシーツ)を腰に巻く。真似して巻こうとした一郎のものは短すぎて、背中が丸見えになってしまった。


「あの、エマさん...」


「あ、ごめんなさい。パパの使わなくなったシーツしかなくて」


店主が笑いをこらえている。


夜の実験会の準備が整った。カウンターには様々な野菜や調味料が並ぶ。一郎は包丁を手に取り、深く息を吸った。


「では、まずは基本的な...うわっ!」


包丁を振り下ろした瞬間、人参から魔力が噴き出し、キラキラした光の粒子が厨房中を舞い始めた。


「くしゅんっ!」エマがくしゃみをする。「あ、魔力くしゃみって初めて」


なんと、くしゃみと共に小さな虹が口から出た。


「おお、虹くしゃみ」店主が感心する。「うちの母ちゃんは魔力くしゃみすると、周りの食材が浮き上がったもんだ」


「え?お婆ちゃんそんな凄かったの?」


「ああ。だから厨房に立つのを禁止されてた」


一同爆笑。和やかな雰囲気の中、実験は続く。


「次は、このキノコを魔力を逃がさないように...」


慎重に包丁を入れると、キノコが突然ぷくぷくと膨らみ始めた。


「でっ、大丈夫ですか!?」


「あ、あれ?」エマが指差す。「キノコさん...踊ってる?」


確かに、膨らんだキノコはカウンターの上で、まるでダンスをするように揺れている。しかも、なぜかリズムに乗っている。


「ホップ♪ ステップ♪」

店主まで歌い出す始末。


「こ、これは...」一郎は必死に料理人としての真面目な顔を保とうとするが。


「プッ」思わず吹き出してしまう。


そんな笑いの中でも、一郎の頭は冴えわたっていた。魔力は食材の性質を増幅させる。人参の栄養価、キノコの弾力性...。これを使えば、全く新しい料理が。


「あ!」エマが声を上げる。「キノコさん、天井まで届きそう!」


見上げると、踊るキノコはすでに天井すれすれ。


「おっと」店主が慌てて梯子を持ってくる。「捕まえないと」


一郎とエマは顔を見合わせて笑った。失敗も、予想外の発見も、全てが新しい料理への一歩。


実験は夜遅くまで続いた。魔力くしゃみ、ダンシング・キノコ、光る食材たち。不思議な光景の中、新しいレシピのアイデアが次々と浮かんでくる。


そして、カウンターの隅では、エマがこっそりと包丁を握っていた。一郎の切り方を真似て、小さなカブと向き合っている。


「あ...」


彼女の手の中で、カブが淡い光を放った。


誰も気付いていない。料理の才能の種が、確かに芽吹き始めていたことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る