第5話「ギルドの査察」
「魔力を用いた調理法の無許可実施、これは重大な違反ですよ」
料理ギルド査察官を名乗る男性は、眼鏡の奥の鋭い目で店内を見回した。昼の繁忙期が終わり、客足が落ち着いた頃を狙っての来店だった。
「申し訳ございません」店主が頭を下げる。
その時、キッチンから「ぷすっ」という音と共に、小さな虹が漂ってきた。
「くしゅん!」
エマの魔力くしゃみだ。虹は優雅に旋回して、なぜか査察官の頭上で輪っかを作った。まるで光の王冠のように。
「こ、これは...」査察官が慌てて払いのける。
しかし次の瞬間、キッチンからの衝撃音。
「わっ!キノコさんたち、また踊り出した!」
エマの声に振り向くと、調理中の食材たちが次々と宙に浮き、まるでサンバのリズムに合わせたように揺れ始めている。
「な、なんという無秩序な...」査察官は言葉を失う。
一郎は事態を収拾しようと前に出た。「申し訳ありません。実は私たちは魔力の制御について研究を...」
その時、査察官の腹から大きな音が。
「ぐぅー」
場が凍りつく。
査察官の顔が真っ赤になる。どうやら昼食を取る暇もなく査察に来たらしい。
「あの」エマが勇気を出して声をかける。「良かったら、私たちの料理を食べてみませんか?」
「そ、そんな無許可の...」
「でも」店主が意外な切り札を出す。「ウチの料理なら、査察の正確な判断のために食べる必要がありますよね?」
「む...」査察官は考え込む。「た、確かにそれは...適切な指摘かもしれません」
「では『躍動する森の恵み』セットを」一郎がさっと調理を始める。
エマも手際よく魔力を制御した野菜を切り分けていく。二人の息はピッタリと合っていた。
「どうぞ、召し上がってください」
出来上がった料理の前で、査察官は明らかに動揺していた。料理からは穏やかな魔力の光が漂い、芳醇な香りが立ち上る。
「では...検査のために」
そう言って一口。
査察官の目が見開かれた。
「これは...」
店主、一郎、エマは固唾を飲んで見守る。
「これはいったい...どういう調理法なんです?」
査察官の声が震える。「これほどまでに魔力を引き出しながら、素材の味を活かすなんて...」
「実は...」一郎が説明を始めようとした時。
「待って!」査察官が手を上げる。「詳しい話は...その、正式な調査の時にしましょう」
「正式な...調査?」
「はい」査察官は姿勢を正す。「これほど画期的な調理法は、ギルドとしても...きちんと研究する必要が...」
そう言いながら、査察官は箸を止めない。
「あの」エマが心配そうに声をかける。「おかわりしませんか?」
「え?あ、いや、その...」
査察官は赤面しながらも、小さく頷いた。
一同の顔にそっと笑みが浮かぶ。
「ただし!」査察官は急に声を上げる。「これは非公式の...その...試食であって...」
「はい、はい」店主がニヤリと笑う。「内緒にしておきますよ」
「くしゅん!」
エマの魔力くしゃみが、また一つ虹の輪を作った。今度は査察官の取り皿の上で、料理を優しく照らしている。
それは、まるで料理と魔力の新しい可能性を示すように、温かく光を放っていた。
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異世界グルメ王~失意のシェフ、魔法の料理で再起を考える~ ソコニ @mi33x
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