小学校の帰りの会で、授業参観のお知らせのプリントが配られた。

 それをじっと見ていると、ふいに隣の席のあやかちゃんがぼくに言った。

「前の授業参観の時さ。みつるくんのママ、すごい派手で目立ってたよね」

「そうかな」

 ぼくはプリントをたたんでお便り袋に入れた。そういえば前回の授業参観、あやかちゃんちは両親そろって参観に来ていた。

(お父さんの収穫が間に合えば、ぼくもママとお父さんの両方が授業参観に来てくれるかな)

 そうなったらなんて素敵だろう。まるでドラマの世界みたいだ。

「あのね――ぼく、お父さんができるかも」

 思わず言ってしまった。

 唐突の告白に、あやかちゃんはぽかんとする。

「ママ、再婚するの?」

「さいこんってなに?」

「やくざな男と結婚することよ。その男はこどもをぎゃくたいするの」

 あやかちゃんは低い声でおどろおどろしく言った。

 ぎゃくたいってなにと聞きたかったが黙っていた。質問ばかりして、ぼくがあまりにも物を知らないと言いふらされたらたまらなかった。あやかちゃんはそうゆうところがあるのだ。

「さいこんなんてしないよ」

「じゃあどうしてお父さんができるのよ」

「ママがどこかから買ってきたんだよ」

 えっとあやかちゃんは目を見開いた。

「でもねえ、お父さんを大事にかわいがってるのはぼく。――あ、内緒ね。ママには人に言うなって言われてるんだ」

 ぼくは慌てて言い足した。

 あやかちゃんは穴が開くほどぼくを見つめていたが、突然我に返ったように力強く言った。

「大丈夫。わたし、ぜえったいに誰にも言わないから」



 二週間も経つと、二本の芽は大根のように大きく太くなった。

 あんなに柔らかそうだったのに、ごつごつと筋ばっていかにも固そうに見えた。さらには黒くて太い毛がいっぱい生えてきたのだ。

 そしてぼくは大事なことに気づいた。それは手ではなくて脚だったのである。

 久々に様子を見にきたママは、芽を一目ひとめ見るなり眉をひそめた。

「気持ち悪」

「そんなことないよ。お父さんだよ」

 足から生えてくるということは、逆さまに埋ってるということか。確かに脚より髪の毛のほうが根っこっぽいよなぁなんてことを考える。

「まあでも、収穫は近そうね」

 面倒はみないわよ、と言い捨ててママはアパートに入って行った。

 ぼくは力強く生えた脚にコップの水を引っかける。

「……どうか授業参観までに収穫できますように」

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