ー2ー
介入するのはPC版特有のルートだけと決め、僕たちはある程度回避策を練り、あとはゲーム開始を待つことにした。
開始までの約十九年間、僕たちはレオーネの様子を冥界から見守り続けた。
八歳のある日、突然
ずっとずっと僕と
その間、冥界で一つ変化があった。
それまで
僕は新人の時のOJT担当だった琳祢とペアになった。なんというか、ずっと琳祢と一緒だ……。
そして、レオーネ十九歳のある日、とうとうゲームが始まった。
レオーネを捕らえたのはガウェインだった。王都の地下牢に軟禁されたレオーネは、自身の境遇に泣き言も不満も言わず、絶望しない心の強さで日々を過ごした。
攻略対象たちと交流を重ねつつストーリーが進行し、PC版のみの理不尽ルートに差し掛かると、僕は
特に、紅蓮の魔女の死刑を求める聖堂教会の司祭たちが乗り込んできた強行死刑Endは大変だった。この追加エピソードは、一回の、しかも一つの選択肢で発生してしまう、それまでの流れを完全に無視した超理不尽な死亡Endだった。
何故このエピソードを追加したのか
事前に追加エピソードの回避案をすべて検討していたけど、ガウェインに捕まったことでだいたい三分の一の追加エピソードは気にしなくてよくなった。加えて、レオーネが他のキャラに目移りすることなく、ただただ一途にガウェインへの想いを募らせてくれているおかげで、へし折るフラグが少なくすんでいる。
これには僕も琳祢もほっと胸を撫で下ろした。
想い人のガウェインは実直で忠義に
時が流れゲームの終盤に差し掛かったある日、王都にほど近い森に非常に凶悪な魔物が群れを為していることが確認された。このままでは周辺の村や町に被害が出るし、王都に来られては被害は
ガウェインは早速討伐部隊を編成するが、王から紅蓮の魔女を使えと命が下る。「そのために生かしておいたのだ」と。
禁忌の力を持つ者を処刑せず軟禁していたのは、有事の際に使うため。それを知ったガウェインは少なからず動揺する。命令に背くことはできない代わりに、騎士と魔術師から精鋭を
こうして、死の危険を
通常版では討伐前夜に二人の会話イベントが発生し、選択によって、ノーマルEndとハッピーEndに分岐する。
でも、PC版ではノーマルEndはそのままだが、ハッピーEndになる選択肢を選んだ先に二人の会話イベントが追加されている。この追加された会話イベント――討伐前夜2――で選ぶ言動によって、さらに二つのEndに分岐する。
一つはハッピーEnd。通常版のハッピーEndとほぼ展開は同じだけど、濃厚なラブシーンが前夜と帰還後それぞれに追加されている。
もう一つがPC版のみのエピソード。琳祢が『エロ死にEnd』と呼ぶ、バッドEnd。
国への忠義とレオーネへの愛の
琳祢の命名も納得の心中展開で、それだけでも気が滅入るのに、二人亡き討伐部隊では魔物に大苦戦し、リアンは片脚を失い、周辺の村と町が甚大な損害を被るという救えないEndだ。
ほんとうに、何故こんな展開を追加したんだろう。誰が幸せになるんだ。
作った人に文句を言いたくなるこの展開を回避するのが、僕の最後のミッションだ。
討伐前夜イベントの当日、僕たちは朝から集合した。
「
若干硬い琳祢の言葉を受け、僕は神妙に頷いた。
「討伐前夜には大きな分岐が二回ある。一つが通常版にもあった分岐。討伐前夜1イベント。ここでノーマルEndに進んだら介入する必要はないわ」
「バッドEndにならない代わりに、二人は結ばれない……」
僕の補足に頷く琳祢。
「ノーマルEndに行かなかった場合、追加された討伐前夜イベント2に入るわ。
一旦レオーネの牢からガウェインが離れ、入れ替わりに衛兵が一人、警備の交代でやってくる。元からいた衛兵としばらく会話した後、元からいた衛兵は去っていき、しばらくしてからガウェインが戻ってくる。
ゲームだと、レオーネはガウェインとの会話の中で二回の選択を経て、ハッピーEndとエロ死にEndに分岐してる」
「たった一つの組み合わせの時にだけバッドEndに入るんだったよね」
「そう。一回目の選択で『ですが、私が食い止めればいいだけですから』を選んで、二回目の選択で『あたなは陣営にとどまるのでは?』を選ぶとエロ死にまっしぐら。んで、肝になるのが衛兵二人の会話よ」
僕は頷きながら、琳祢が詳しく調べてくれたシナリオに目を落とす。
ガウェインが一度牢を離れた後、衛兵二人が短い会話をする。
衛兵A:リアン様が選抜された魔術師団とガウェイン様率いる騎士団も行くらしい。 紅蓮の魔女一人ではさすがに倒せないかもしれないが、なにもガウェイン様まで前線に行かれなくても……。
衛兵B:いや、ガウェイン様は陣営での待機になるらしい。さすがに団長に何かあっては困るだろう。
衛兵A:そうなのか。確かに、せっかく騎士団が整ってきたところだ、今あの方を失うわけにはいかない……。
この会話をして衛兵Aは去っていく。
「戻ってきたガウェインは自分も前線に出るとはっきり言うのに、衛兵たちの会話を聞いていたレオーネは、自分を駆り出すために嘘を吐いていると勘違いしてしまう……」
このシーンに至るまでに二人は良い関係性を構築している。
ガウェインは、不遇に絶望しない強い心を持つレオーネの凛とした美しさに惹かれているし、レオーネはガウェインのことを、禁忌の存在である自分をぞんざいに扱わない人、誠実な人、信頼できる数少ない人と心を許している。
なのに、嘘を吐かれた、と勘違いしてしまう。
そう、これは勘違いなのだ。
「ガウェインは本当に自分も前線に出て一緒に戦うつもりだよね」
「そうよ。待機させようと思ってるのは国王サイド。しかも当日無理やり待機させるつもりで本人には伝えてない」
勘違いしたから、疑うようなセリフや皮肉めいたセリフが用意されている。
だったら、ガウェインが待機になる
僕たちはそう考えた。
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