転生者を見守る簡単なお仕事? ~R18乙女ゲームに転生させてしまいました~
朝凪なつ
ー1ー
「転生先の座標を設定して、あとは生まれるのを見守るだけ。簡単でしょ、
死者は冥界において閻魔様に生前の罪を裁かれ、
六道とは、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の六つ。
閻魔様の神使である僕たちは、死者の魂が次に生まれ落ちる世界の座標を設定して転生作業を完了させ、無事に生を受けるのを確認する。それが役目だ。
簡単な仕事だと琳祢は言ったけれど、僕は一年目から大きなミスをした。
いくつかの転生者を見守り、少し仕事に慣れてきた僕は、二十八歳という若さで交通事故で亡くなり、人間道に転生することが決まったとある女性を担当した。
人間道への転生は、死者の魂が抱く思念を参考にして詳細な転生先を決める。この女性の場合、それは元いた地球ではなく、ゲームの世界だった。
『
当時、日本の一部の女性の間で流行っていたゲームらしい。いわゆる女性向けの恋愛シミュレーションゲーム。
強い思いを抱くのは、このゲームとなにか特別なかかわりがあったか、死の直前に頭の中をゲームが占めていたか、だいたいそんなところらしいと、乙女ゲームと言うワードも知らなかった僕に琳祢がいろいろと教えてくれた。
僕は彼女の思念を読み取り、このゲームのヒロインポジションの座標を設定した。
つもりだった。
「ねぇ、伽琉磨。この転生者の座標間違ってない?」
座標を設定してからしばらく経ったある日、たまたま一緒に居合わせた琳祢に声をかけられた。
僕は確認のために座標を書き留めているメモ帳を開く。
「ちゃんと『紅蓮の魔女と秘密の契約』っていうタイトルのヒロインを設定したはずだけど……」
視線を転生盤に移し、設定したゲームタイトルを読み上げる。
「『紅蓮の魔女と秘密の契約 ~運命の前に堕ちる花~』」
「それタイトル違う!」
「え!?」
「サブタイトルついてるでしょ」
「長いのが正式名称なんじゃないの?」
「違うわ。『紅蓮の魔女と秘密の契約』は通常版。伽琉磨が設定したのは、通常版から派生したPC版」
「え、それって……」
「似たタイトルだけど、別のゲームよ」
「うそっ、どうしよう」
間違ってしまった……!
僕たちは慌てて
失態に汗がぶわっと噴き出してくる。
「まずいわよ、伽琉磨」
そうだねと僕は何度も頷く。
「乙女ゲームのPC版って、通常版のストーリーにR18要素が盛り込まれてることがほとんどなの」
「えっ?」
思いもよらない言葉に、僕は隣に立つ琳祢に目を向ける。彼女の横顔には険しさが浮かんでいた。
「男女の営みのシーンならまだいいんだけど、私が知ってる限りじゃ、無理やり行為に至るエピソードや監禁や薬漬け、心中なんかが追加されることが多いわ」
なんだそれ、どこに恋愛要素があるんだ……。
「そんなの彼女が望んだことじゃないわ。なんとかするわよ、伽琉磨」
「え?」
虚をつかれて固まること数瞬、僕は己の過ちに気がついた。
僕は転生先を間違ったという自分の失敗で頭がいっぱいだった。だけど琳祢は、最初から転生した彼女の身を案じて焦っていた。羞恥で顔が一気に熱くなる。
「まずはPC版だけの追加エピソードを調べてみなきゃ。それは私がやるから、ひとまずあんたは閻魔様に報告して。
なぁに、乙女ゲームなんてだいたいある程度成長したところから始まるから、今日明日でなにかが起こるなんてないわ。それに、案外ソフトなR18ものかもしれないし。だから、落ち着いて対応しましょ」
己の未熟さに顔を赤くしている僕の様子を勘違いしたのか、琳祢はテキパキと指示を出し、あまつさえ僕を慰めてくれた。
三日後、僕と琳祢は情報共有のために集まった。
『紅蓮の魔女と秘密の契約 ~運命の前に堕ちる花~』
このゲームのヒロインはレオーネ。
八歳で紅蓮の魔力に目覚め、両親に隠されるようにして育てられる。レオーネたちの住むヴァレンティア王国では、紅蓮の魔力は禁忌とされ、国の管理下に置かれることになっている。見つかれば、即捕らえられ、良くて牢屋生活、悪ければ即刻死刑。
紅蓮の魔術は、地獄の苦しみを与える術。
系統は風と氷の混合。微細な氷の粒が
魔術学では通常発動できない術のため、使えば即刻禁忌の力だとばれてしまう。
十五歳の時、魔物が村を襲い、レオーネをかばって両親は命を落とす。紅蓮の魔術で魔物を退治するが、周囲にばれる結果となり、故郷を逃げるように去る。
その後数年間、人里離れたあばら家でひっそりと暮らしていたレオーネは、十九歳のある日、紅蓮の魔女を捕らえる任を受けた者によって捕らえられてしまう。
ここからゲームは始まる。
ちなみに冒頭の捕らえられるシーンからすでにルート分岐が始まる。
一つは王国騎士団長のガウェインに捕まるルート。もう一つが聖堂教会の司祭ルシアスに捕まるルート。二人とも攻略対象、いわゆる恋のお相手候補で、ゲーム展開上はガウェインルートがメジャーらしい。
攻略対象はガウェインとルシアス以外に、優しいがどこか頼りない第二皇子のアレックス、癖つよ魔術研究家のリアンの四人。それぞれ個別ルートに入っていくと、レオーネは彼らと秘密の契約を結ぶことになる。そして、壮絶で情熱的で、時に官能的な物語が展開される、らしい……。
琳祢の話に僕はただただ耳を傾けた。知らない単語は、都度質問して。
「大まかな話の筋はこんな感じ。んで、大事なのはPC版に追加されたエピソード。調べた限りだと、どの攻略キャラもエグいシーンが追加されてる。
レアなルシアスルートは監禁エロシーンが増えてるし、死亡Endが二種類も追加されてる。王道なガウェインでも行為中に心中するEndが追加されてる。第二皇子アレックスは逃避行の末、毎日行為に
あまりの内容に僕は開いた口が塞がらない。恋愛ってなんだっけ……。
「あ、ちなみに通常版のエピソードにラブシーンが追加されているけど、それは割愛してる。そんなのご自由にって感じだし、自然の流れだから。
それよりも、転生した魂が知らない超絶理不尽なエピソードをなんとかしないと。こちらのミスを転生者に背負わせるわけにはいかないわ」
僕のミスなのに、責任感のある発言をする琳祢に恐縮しながら頷く。
「そ、それで、どうするの?」
「通常版にはない理不尽イベントを回避する」
琳祢ははっきりと言い切った。
「彼女、通常版しかプレイしていないんでしょ?」
「うん」
念のためにもう一度魂の思念の記録を確認したから間違いない。
「だったら、記憶を蘇らせて本人に回避してもらうことはできないわね……」
イレギュラー時に転生者の前世の記憶を蘇らせ、本人に何とかしてもらうという
どうしたらいいだろう。僕が考え始めた次の瞬間、
「じゃあ、あんたがゲーム世界に入って、うまく立ち回るしかないわね」
「……えっ」
琳祢はさも当たり前のように言いきった。
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