第4話 最下級迷宮

「もうそろそろ、〈魔力〉と〈闘気〉が、半分尽きてしまうな」


 これ以上の深入りは、死亡リスクが高くなってしまう。そろそろ、限界距離だ。


「くぅ~ん?」


 とりあえず、休憩のために壁を背にして座った。

 子犬は、俺のズボンを噛んで進むことを促してくる。


「俺は、才能がないんだよ。継戦能力が致命的にないんだ。それと、スライム程度なら倒せるけど、上級モンスターが出てきた時点で逃げるしかいない。今日は引き返してもいいかな?」


「くぅ……ん」


 言葉は伝わらないみたいだけど、気持ちは理解してくれるみたいだ。賢い子犬なのかもしれない。

 だけど飼うことはできないんだよな。ギルドに引き渡すのが義務になっている。そこで魔物モンスター認定されると、処分になる。

 ここで子犬が、何処かへ行ってすぐに戻ってきた。


「何を持ってきたんだ?」


 何か結晶っぽいモノをくわえて来た? 赤い結晶?

 手に取ってみると、〈魔力〉が回復することが分かった。


「学校の授業でも習わなかったな。もしかすると、大手ギルドは、これがあるから探索を行えるのか?」


 かなりの貴重品の可能性もある。

 そして、高額で売れる可能性……。

 考えていると、子犬が今度は白い結晶を持ってきた。

 触れると、今度は〈闘気〉が回復した……。


 子犬を見る。目で何かを訴えている。

 俺は立ち上がった。


「行こうか」


「わん!」





 赤い結晶と白い結晶は、何度も使うことができた。持っているだけでも、回復するんだ。

 俺の容量キャパシタンスが少ないのが原因らしい。いや、未知の物質なんだ、想像以上かもしれない。

 だけど、俺の継戦能力は、数倍に跳ね上がったと言ってもいい。


「スライムだけが出てくるのであれば、俺の攻撃力でも探索は可能かもしれないな」


 そう思った時だった。

 色違いのスライムが現れた。しかも、通常スライムの数倍の大きさだ。


「くっ、先手必勝!」


 俺の全力の〈魔力〉と〈闘気〉を籠めた一発を放つ。短銃が過熱していて、次の弾を撃つのにはちょっと時間がかかる。

 巨大スライムは、体の1/3を吹き飛ばされたけど、死ぬことはなかった。


「最悪だな。急所を外したか」


 俺は、子犬を抱えて撤退を決めた。

 その後を巨大スライムが追ってくる。


 状況として最悪だ。短銃は、次の一発で破損する恐れがある。銃身が持つとは思えない。

 何でこんな無茶をしたのか。


(幼馴染2人が活躍したからといって、俺もって思ってしまったのかな……)


 安全マージンを考えるべきだった。

 走りながら、白と赤の結晶から補充を受ける。次の一発で足止めをして、入り口に辿り着けなければ、俺の死亡が確定する。

 そう思った時だった。


「わん!」


 子犬を見ると、青い結晶をくわえている?

 今の俺は、左脇に子犬を抱えて、左手に白と赤の結晶を持っている。右手には、短銃だ。

 短銃を仕舞い、青い結晶を受け取る。

 そうすると、何かしらの力が体に流れてきた……。


「これ……、〈魔力〉と〈闘気〉とは違うな。エネルギーが体の周囲を覆っている?」


 青い結晶を持っている右手には、今までとは比較にならないほどのエネルギーが集まっていることが分かる。

 後は使い方だ。

 ここで、雑魚スライムが行く手を阻んで来た。

 右手で振り払うと、スライムが吹き飛んだ?


「身体能力が上がっている?」


 そういえば、さっきから走っているけど息が上がらない。

 速度も上がっている気がする……。

 後ろを振り向くと、巨大スライムとは、距離が離れていた……。


「新しいエネルギー源?」


 まだ使い方が分からない。

 せめて、攻撃に転用できれば、勝機もあるんだけど。


「わん!」


 子犬を見ると、青い結晶の力を集約していた。何かしようとしている?

 子犬の意図を感じ取り、背後を向いた。


「わおーーーん!」


 レーザー光線みたいな光が、犬の口から放たれた?

 それが、巨大スライムに直撃すると爆散した。

 俺の背後には、迷宮ダンジョンの出口である、ゲートがある。結構走ったみたいだ。


 煙が晴れて、巨大スライムの死骸が見えた。塵になってるよ。


「お前、凄いな」


「わふ?」





 その後、迷宮ダンジョン内のスライムの気配が消えた。スライムにも逃げるだけの知能があるみたいだ。

 もう2時間は経過しているけど、探索を続けることにした。

 何かある──その確信だけはあった。


 迷宮ダンジョンの最奥にまで着いた時に、青い結晶の部屋が見えた。しかも巨大だ。

 子犬がここで、俺の腕から降りた。

 そして、青い結晶を食べ始める。


「俺にも真似ろってことか?」


 試しに持っていた、小粒の青い結晶を口に含んでみた。そうすると、液体に変わり……飲み込めた。味は、少しの甘みを感じるくらいだ。


「わん!」


 子犬が続けろと言っている。なんとなく、意思疎通ができるようになってきた。いや、意思疎通以上だな。

 とりあえず、青い結晶を砕いて、食べられるだけ食べてみる。

 そして感じる……。〈魔力〉と〈闘気〉以外の力を感じる。なんというか、体の外側からエネルギーを得られる感じだ。


「これ……、迷宮ダンジョン内のエネルギーを吸収しているのか?」


 エネルギーの流れが、今までと違う。

 試しに右手にエネルギーを集めてみた。

 真円の光の玉弾、無重力下の炎、お化け屋敷の鬼火……。そんなエネルギーの塊ができ上った。形は任意に変更できそうだ。立方体にも変えられる。そして、発射してみた。


 ──ガキン、ピシピシピシ……ドパン


 さっきの子犬の真似だけど、指先からビームを撃てた。これは大きいな。


「……威力として申し分ないな。昨日の俺の攻撃力の十倍くらいだ。しかも、銃の補助なしだし。いや、エネルギーを溜める時間を調節できるのであれば、威力は跳ね上がるか?」


 巨大な青い結晶が、砕け散った。

 そして……、ダンジョンが変化し始めた。

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