第3話 庭に……

 作業用のつなぎを着て、庭の草むしりを始めた。

 実家の庭は、元は日本庭園みたいだったけど、木を大分間引いた。維持ができなかったからだ。

 それと……、半分を畑にした。

 今は、ジャガイモを植えている。もう少しで収穫だ。キュウリなどの野菜も植えたけど、世話をするのが俺しかいなかった。

 食費の節約になるかとも思ったんだけど、結局あまり収穫できずに枯らす結果になったので、野菜の栽培は諦めている。


「ジャガイモは、三人で消費すれば一年は持つはずだ。まあ、二毛作だけどね。おかずに、炭水化物もどうかと思うけど、食費の足しにはなっている。それと、果物だな。秋が楽しみだ」


 数代前の祖先から、林檎を植えているんだけど、たいして世話をしなくても実を成してくれる。この樹だけは残したいと思っている。俺が引き継がなければならない。


「さて、雑草取りは終わりでいいかな?」


「わんわん……」


 ん? なんだ?

 声の方向を見る。


「野良犬? 家の周りには塀があるのに迷い込んだのか?」


 子犬が迷い込んでいた……。

 しかも怪我しているみたいだ。


「犬を飼う余裕は、ないんだよな……」


 それと、畑を荒らされたくない。

 家の外に連れ出すしかない。その前に怪我の手当てをしてやるくらいしかできないな。

 犬って雑食だったか? 肉食だった気もする。ソーセージくらいならあげられるかもしれないけど……。餌付けしてしまい、居座られるのは困るな。

 そう思った時だった。

 想像もしていなかったモノが目に入った。


「……ゲート? 迷宮ダンジョンの入り口が発生した? 俺の家の庭に?」





 とりあえず、小犬は保護して家の中に入れる。後ろ足から出血しているみたいけど、骨は折れていないみたいだ。消毒して、毛布の上に寝かせる。

 それと牛乳を与えたら飲んでくれた。そして、眠ってしまった。


 ──ピンポーン


 連絡した、警備会社が来たみたいだ。


「ゲートが見つかったと連絡があり、きました」


「こちらになります」


 俺は、警備会社の社員を庭に案内した。

 警備会社社員が、何かの測定器を使い始めた。


「……最下級の迷宮ダンジョンですね。しかも入り口が小さい。人が入れる大きさじゃないですし、入り口を塞いで経過観察とします。幸いにも君は、衛門えもん高校生だし。対応できるでしょう?」


 ため息しか出ないよ。

 だけど、今後探索者シーカーが重要視されるのは既定路線だ。それは、最弱の俺でも仕事が与えられることを意味する。


「せめて、迷宮ダンジョンの閉じ方が発見されれば、また違うんですけどね」


 世界中で議論されている話だ。

 迷宮ダンジョンを踏破しても、迷宮ダンジョンは消えない。

 増える一方なので、管理も大変なんだ。

 いや、偶にだけど消える場合もあるんだったか。その方法が確立されなくて困っているんだったな。


 そして……、高難易度迷宮ダンジョンが暴れ出すと、探索者シーカーに死者が出る。

 『適正者』の数も、そうそう増えない。

 一般人が迷宮ダンジョンに踏み込むと、空気に含まれる毒素で蝕まれてしまう。最低でも、潜水服クラスの装備が必要だった。一般人は、入り口のゲート付近で、カメラマンをするのが限界だと思う。



 警備会社の社員が帰って行った。


「ゲートに檻を被せただけって、どんだけ適当なんだよ……。これでも迷宮ダンジョンなんだぞ?」


 ネズミの魔物モンスターよりも弱いとの判断なのかもしれない。大きさ的に、毒を持たない昆虫が妥当かな?

 ランク的にEランクの中でも更に下かもしれないな。


「くぅ~ん」


 ん? 保護した小犬が、庭に出てきた? 後ろ足一本を使わないで歩いている。


「わんわん!」


 仕草から、檻を外せと言っている……。

 もしかして、この小犬は魔物モンスターなのか? 迷宮ダンジョンから出てきた?

 今のところ凶暴さはない。

 そうすると、犬系の魔物モンスターが這い出す迷宮ダンジョン


 俺は少し考えて、檻を外した。

 子犬の動向を見る……。

 ダンジョンに触れると、吸い込まれるように消えてしまった。


 俺は、装備を整えるために一度自分の部屋に戻った。

 短銃をホルダーに仕舞い、ホルダーを腰に巻く。それと、学校指定のプロテクターとヘルメットだ。銃手ガンナーである俺は、ゴーグルも欲しい。

 最後に護身用の短剣だ。腰に装備した。


「とりあえず、フル装備だ。食料はないけど、飲み物は持った。短時間の探索にしよう」


 俺は、庭に戻り迷宮ダンジョンの入り口──ゲートに触れた。





「……ゲートって空間を歪ませるモノもあるんだな」


 人が入れる大きさじゃなかったんだけど、ゲートに触れたら空間が歪んだみたいで入れた。

 新発見かどうかも分からないけど、一般には出回っていない情報のはずだ。

 中に入ると、助けた子犬がいた。

 どうやら、俺を何処かに連れて行きたいらしい。それだけは分かる。

 怪我は大丈夫なんだろうか?

 子犬の先導で着いて行くと、魔物モンスターと遭遇した。


「……スライムか。まだ俺でも、対応できるかな? それと魔物モンスターは、昆虫でも犬族でもないんだな。予想を外したか」


 魔法の弾丸で処理すれば、一発で倒せる。俺には散弾系の範囲攻撃がある。問題があるとすれば、弾数だ。俺は、絶好調時で20発が限界だった。実弾の拳銃が6発なのを考えれば、まだ使えると考えてもいいかもしれない。

 ちなみに〈闘気〉系統は、スライムの核を破壊しないといけないので、剣技などの技術が必要となる。シュウは、槍の一撃で撃ち抜くけどね。動体視力と俊敏性が重要となってくる。

 ハンマー系を得物とするのであれば、スライムは楽な相手でもあると聞いた。

 まあなんだ、最弱な魔物モンスターの代表だけど、武器によっては苦戦するってだけだ。


 ──パン、パリパリ


 一発で命中。スライムは、即死してくれた。


「わんわん!」


 〈魔力〉が尽きても、まだ〈闘気〉が残っている。往復のことも考えないといけない。移動距離を考えて制限を設けるか。

 子犬が、不思議そうに俺を見ている。

 俺の行動が、遅過ぎるみたいだ。


 魔物モンスターが、人間を導くのか……。聞いたことがないけど、興味を惹かれてしまった。


「この先に、何があるのかな?」

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