第2話 幼馴染1

 夏休み一日目。

 両親を送り出してから、雑用を済ませてテレビを見る。


「今日も迷宮ダンジョン関連からか……。まあ、資源が出るんであれば話題にもなるか。地球では、産出されない物質なんてモノもあるんだしね」


 今日の迷宮ダンジョン攻略は、三ヵ所。ギルドと呼ばれる、探索者シーカーの組合の動向を説明している。

 大手は、五社だけど、二社は休業みたいだ。

 それと……、小規模なギルドもある。数人単位で迷宮ダンジョンに潜るんだそうだ。こちらのギルドは、成果を上げたら特集される。


「配信もされているんだよな」


 動画配信の人気コンテンツだ。

 美女の服が破ける程度の放送事故は、日常茶飯事。魔物モンスターに生きたまま喰われるなんて生配信まであった。

 後からモザイク処理されるけど、生配信は防ぎようがない。

 薄着の美女たちをメイン探索者シーカーにしたギルドは、不意打ちに会って全滅したこともある。放送事故ってレベルじゃない。教育委員会からのクレームは、毎日だとか聞いている。


「年齢制限をかけろよとか言いたいけど、将来を見据えると低年齢からの育成が必要なんだよな。『適正者』は、何処で生まれるか解明されていないし。少なくとも血統じゃなかった。『適正者』同士の両親から、一般人が産まれるのは周知の事実だし」


 考えていると、テレビの画面が変わった。


『ご覧ください。東京の最難関迷宮ダンジョンである〈渋谷〉に挑む探索者シーカーたちです』


「……んっ?」


 ここで見知った顔を見つけた。いや、見知った姿か。雰囲気で判断できる。

 見慣れない装備を見に纏っていたので、発見が遅れたみたいだ。


南沢修一シュウ七瀬遙ハルカ? 竜の咆哮ドラゴンブレスギルドと夏休みだけ契約したのか? 最大手の五大ギルドに誘われたのか?」


 総勢、30人のパーティーみたいだ。

 それと2人は、顔を隠している。正式加入って訳じゃないみたいだ。


「装備からして、荷物持ちポーターじゃないよな……」


 同じ高校の生徒は、2人だけみたいだ。ちなみに適正者だけの高校は、各都道府県にある。

 もしくは、今日は他の迷宮ダンジョンに参加なのかもしれない。大手以外にも、単位目的で参加する奴はいる。

 考えていると、竜の咆哮ドラゴンブレスギルドが迷宮ダンジョンに入って行った。



 自分の部屋に戻り、パソコンを立ち上げる。

 竜の咆哮ドラゴンブレスギルドの動画配信を見るためだ。


『さあ今日は、最長踏破記録を塗り替える覚悟で進みましょう!』


 渋谷の迷宮ダンジョンは広い。未踏破の地図化マッピングが目的みたいだな。

 司会の人は、テンションが高い。幼馴染の2人は、最後尾で着いて行くだけみたいだ。

 あの位置なら、全滅しなければ安全だろう。


 パーティーが、迷宮ダンジョンを進んで行く。

 Cランク以上の探索者シーカーで構成されたパーティーなんだ。序盤の雑魚は、瞬殺されていた。


「渋谷にあるAランクダンジョンだよな。俺では倒せそうにない魔物モンスターを、秒で殲滅だもんな……」


 正直、攻撃力が違う。俺は、自分の短銃を見た。これも、扱う人によっては、威力が大きく変化する。

 要は、探索者シーカーは才能だということだ。俺は、ネズミの魔物モンスターの急所を撃ち抜けば倒せる程度だ。急所を外すと、毛皮に弾かれてしまう程度の威力しか出せない。


 幼馴染の2人は、慣れない武器の試し切りをしている感じだ。槍とメイスかな? 借用品みたいだ。もしくは学校が用意した専用カスタム装備かもしれない。

 まだ余裕がありそうだな。





 4時間が経過した。生配信を見ていると、本当に時間が潰せる。

 だけど、内容が怪しくなって来た。

 竜の咆哮ドラゴンブレスギルドが苦戦し出したんだ。


魔物モンスターが、強くなって来たな。個の力で負け始めている。連携を崩されたら、死者が出そうだ」


 同時接続の数もかなりの数になっている。

 ハルカは、戦闘もできる回復術師ヒーラーだ。その背後を守るシュウ。

 幼馴染の2人は、死なないだろう。もしくは、死亡するのであれば最後の方になるはずだ。


「さっき探索者シーカーの腕が吹き飛ばさた時、コメント欄が大盛況だったな……」


 悪趣味だとは思うけど、命がけの冒険ほど面白い配信もない。古代のコロシアムでの決闘はこんな感じだったんだと思う。

 女性のポロリシーンには、大量のスパチャが飛ぶほどだ。回復魔法があるとはいえ、防具を考えた方がいいと思うんだけど。いや、狙っているのかな? チャイナドレスなんだし。

 そして、探索者シーカーには、それと見合うだけの報酬も支払われる。

 今や探索者シーカーは、大人気配信者になっていた。


『見慣れない魔物モンスターが現れました!』


 司会の人が、危機感を煽る。

 パーティーの消耗は、半分くらい。そんな状況で、未知の敵と当たるのは、愚策だと思うんだけどな……。

 パーティーの行動は、Aランク冒険者三人が決めているらしい。

 そして……、戦うのか。



『前衛が、崩れ出しました!』


 30分程の戦闘の後に、竜の咆哮ドラゴンブレスの陣形が崩れた。死者は、まだ出ていない。

 魔物モンスターは、昆虫型だ。カブトムシとか、蟻だな。外骨格の殻は、刃物が通りづらいみたいだ。硬いのかな?

 それと、魔物モンスターの必殺技で、前衛が半壊してるよ。〈闘気〉系の範囲攻撃みたいだ。

 盾役タンクが頑張っているけど、回復が追いついていなかった。


 ここで、幼馴染2人が前に出て来た。


「危なくないか? 判定としては、Aランクの2人だけど……」


 幼馴染の死亡シーンなど見たいとは思わないけど、見ない訳にもいかない。ハルカのポロリが見たい訳じゃないんだけどね。

 魔物モンスターが、巨大な角を振り下ろして来た。

 それを、シュウが受け流す。カン高い金属音が響き渡る。

 ハルカが、飛び出して、メイスを叩き込んだ。魔物モンスターの殻が大きく歪む。肢が一本折れたな。機動力を奪ったのは大きいと思う。

 怪力の回復術師ヒーラーって欠点ないよな。シュウは、盾持ってるし、あの2人は安心して見ていられる。


「……おいおい、一撃かよ。いや、魔物モンスターはまだ生きている」


 だけど、油断などないとばかりに、シュウが槍を放った。

 一撃が20mm口径の弾丸くらいの槍の連打で、魔物モンスターに穴が空いていく。手足を吹き飛ばしたら、胴体に大きな穴が開いたよ。正直、連打が見えなかった。

 魔物モンスターが崩れて、塵になった。そして、魔石と呼ばれる石を落とした。魔石は、クリーンエネルギーとして使えるし、加工すれば武器防具にもなる。地球では得られない、未知の物質なんだとか。


『おお! 臨時参加の高校生カップルが、やってくれました! 見てくださいこの魔石の大きさを。数年後には、エース級の活躍を見せてくれるでしょう!』


 司会者が煽っているよ。

 2人は、顔を隠しているので身バレはないと思う。。

 それでもチャットは、大荒れだ。


『絶対、イケメンと美少女だよね! スタイルもいいし! アスリート顔負けのスタイル!』

『カップルなのかよ』

『どこの高校生だよ。スカウト金額が過去最高を更新しそうだな』 etc


 スパチャも飛び交っている。あの2人は、今日一日で俺の父親の年収を超えそうだ。

 俺は、パソコンを消した。あの2人なら、死ぬことはないとの判断だ。


「さて、俺は掃除でもするか。夏だし、草むしりがいいかな」

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