第2話 アーケードの馬鹿、VRへ
薄暗いゲームセンター。賑わう街の片隅にあるこの場所は、天条零士にとって唯一落ち着ける居場所だった。いつものようにリズムゲームの筐体に向かい、両手で軽快にノーツを叩く。
「またフルコンかよ、すげえな零士!」
隣で見ていたクラスメイトが目を輝かせているが、零士は無表情で汗をぬぐうだけだった。彼にとってこの瞬間はただのルーティンだ。気持ちいい音楽と一定のテンポに合わせて体を動かす。結果がどうであろうと、そこに特別な感情はなかった。
「……つまんねえ。」
零士はヘッドフォンを首にかけ、椅子から立ち上がる。アーケードの空気は好きだったが、どこかで感じる物足りなさ。それを埋めるものを、彼はまだ見つけられていない。
その帰り道、商店街の一角にある家電量販店のディスプレイに目が止まった。
『Bullet Sword Magic online』――究極のVR MMORPG、いま君を待つ!
画面には鮮やかな異世界の風景が映し出されている。剣を振るう騎士と銃を構える兵士が、巨大なドラゴンと激しい戦いを繰り広げていた。
「へえ……VRか。」
零士は興味なさそうに呟いたが、その目はしっかりと画面に釘付けになっていた。これまでアーケードゲーム一筋だった自分がVR?そんな馬鹿げた選択肢が頭をよぎる。しかし、心のどこかで「何かを変えたい」と思っている自分に気づいていた。
翌日、彼は中古のVRセットを手に入れ、自室でダウンロードを開始していた。
「アーケードの馬鹿が、VRってのも悪くないかもな。」
ログインの準備を進める彼の背中には、どこか高揚感が漂っていた。彼はまだ知らない。これから始まる世界が、自分の限界を超えるほどの経験をもたらすことをまだ知らない。
「えぇっと。“USER LOGIN“」
すると、黒い画面は次第に白くなって行きオープニングが流れ始めた。彼は有無を言わさずスキップした。
『Bullet Sword Magic online〜あなたは魔物から逃げ惑う一般人かそれとも立ち向かい生計を立て冒険する荒くれ者か!〜』
ドラゴンや獣人などの多種族に広がるスタート画面だった。STARTを押すとキャラの設定を考えられる場所に移った。まず、地球人類と異界人類を選択できるらしい。異界人類を、彼は選択した。
異界人類を選択すると、さらに三つの種族が表示された。
1. 兎人族(トビット)
2. 人狼族(ライカンス)
3. 魚人族(マリナー)
「異界っぽいのはいいけど、どれもクセが強いな……。」
零士は画面をじっくり眺める。兎人族は俊敏さに優れる反面、防御力が低いと書かれている。人狼族は攻撃力と体力に特化しているが、装備の選択肢が狭い。そして魚人族は水中戦で圧倒的だが、陸上では移動速度が落ちるというデメリットがあった。
「防御は気にしない。どうせ攻撃こそ最大の防御ってやつだろ。」
そう呟いて、人狼族を選択する。そして、次に現れたのはキャラの外見を設定する画面だった。
「……見た目なんて適当でいいんだよ。」
そう言いながらも、気づけば零士は慎重にスライダーを操作していた。髪は深い赤にして、目は鋭い金色。体格はスリムだが筋肉がしっかり見えるバランスに設定。最後に赤と黒のロングコートを装備として選択し、キャラメイクを終えた。
「プレイヤーネームを入力してください。」
画面に表示された文字を見て、彼は迷いなく入力する。
「RAGE」
確認ボタンを押すと、画面が光に包まれ、次の瞬間――彼は広大な草原の真ん中に立っていた。
「……これがバレソマか。」
周囲を見渡すと、遠くに街らしき建物が見える。空にはドラゴンのような生物が飛び交い、耳を澄ませば川のせせらぎと、かすかに魔物の咆哮が聞こえた。
突然、耳元で音声が響く。
「ようこそ、Bullet Sword Magicの世界へ。あなたの冒険を心よりお待ちしています。」
「お待ちしてるって言われても、何をすりゃいいんだ?」
マップを開こうと試みたが、そこに表示されたのは広大な未開の地。現在地すら曖昧だった。
「とりあえず、街に向かうか。」
そう決めると、彼は歩き出した。初めてのVR世界の冒険が、今始まったのだ――。
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