第8話 冒険者認定試験③
夕日が傾き、森の木々をオレンジから薄青紫に染め上げ始めていた。あれから結果として全19名受験者の全てがチェックポイントに到達した。そこからリタイヤを申し出たのはリカルドを含めて3名、残りの16名は10個しかない魔石をのうち1人1つを手に入れるため、山へと向かった。だが、ここから最低でも6名は不合格となるのだ。
名簿を再確認し、全員がチェックポイントを通っていることが間違いないとして、レイナたちは馬車でリタイヤした受験者を連れて街に戻る。気づいたら夜になっており、街には今日の宿や食堂を求める冒険者や商人でにぎわっていた。ギルドハウスに戻ると魔法協会の治療魔法チームとブロントが待機していた。
「やぁバーンズ君…今回は3名かい?」
「ああ、奥に運ぶ。すぐに治療してやってくれ」
「分かった。さ、皆聞いたね?3つの班に分かれてそれぞれを治すんだ。ひどい場合はすぐ僕を呼んでくれ」
「分かりました!」と治療魔法チームはすぐに行動を開始する。治療魔法自体は属性として水と風、光属性が得意としている分野で、教会や魔法協会の治療を専門とする部署に多く勤めているのもこの3属性が一般的である。
治療を魔法協会に任せている間、レイナたちは馬車からの積み下ろしや今日の分の書類整理、そしてこれから戻ってくる受験者たちの受け入れ準備をしていた。ブロントが「やぁ」とバーンズの横にやってくる。
「やぁ。じゃねえよ受験者たちは大丈夫なんだろうな?」
「ああ、大丈夫。あとは僕がいなくてもうちの優秀な子たちがうまくやってくれるさ終わったら帰るように言ってあるし」
「それならいい……なんだ?こっちを手伝ってくれんのか?」
「あーごめん。用があるのはレイナさんなんだ」
「ちっ…しゃあねぇな…レイナ!ブロントが呼んでる!」
「はーい!今行きます!」
レイナは馬車から簡易テントの用具を下してブロントのもとへ向かうと、「待ってました」と歓迎される。
「え、えっと?」
「いやぁ朝は申し訳なかったね…まさか装置が壊れるなんて…そこでだ!」
糸目を見開いてずいっとレイナに詰め寄るブロント…であったがバーンズにすぐ引き離される。ブロントも「あ、ごめん」と言って半歩後ろに下がる。
「ごほん…結論から言うとレイナさんの属性をもう一度判別させてほしい!ああ大丈夫!今度は壊れないさ!あれから設計図を描いて、今アイテム協会と、更に今回は武装協会にも協力を申し出てあるからさ!」
レイナがブロントに圧倒されていると、ブロントの言葉にバーンズが「はぁ!?」驚いたような声を出して、今度はバーンズがブロントに詰め寄る。
「おいあのババアとジジイ両方がその件に噛むってのか?」
「うん!始めはいつも通りお互いにお互いを罵ってたけど、協力してくれるってさ!今それぞれで部品とが材料を作ってもらっているよ」
「嘘だろ…あのお互いを見たらずっと喧嘩するババアとジジイが…?」
「それだけレイナさんの属性を彼らも見たいってことだよ!ンッフフーイ!」
「は、はぁ…私の属性が…ですか…?」
喜びながらくるくる回るブロントにレイナはあっけにとられ、バーンズはブロントとは対照的に冷めた目でブロントを見ていた。
「おい、ブロント」
「フッフフイ!なんだいぃ?バーンズくぅん?」
「………いや、いい。レイナはどうだ?無理に協力しなくていい。装置作ってんのだってこいつ等が勝手にやってんだからよ」
「ちょ、ちょっとバーンズ君!?こ、こまるよぉ…」
「え、えと、私は…」
先ほどまでテンションの高かったブロントが一変、悲しそうにエルフの耳がしゅんと下がっている。今にも泣きだしそうな顔を見て、嫌とは言えなかったし、あの時装置の中の全ての砂が持ち上がったのが見間違いかそうでないか、気になる。
「私は…知りたいです。自分に何ができるのか分かって、もっと皆さんの力になれるなら…うん、ブロントさんお願いします。」
その言葉を聴いて、ブロントはピシッと襟を正し真面目な顔で「分かりました」と答える。先ほどまで捨てられた子犬のような顔をしていたのに、早い変わりようである。
「装置は3~4日後には出来上がると思う。そしたらここへ持ってくるよ」
「分かりました、お願いします」
「いいよね、バーンズ君、君も同席していいからさ」
「ったく…分かったよ、しょうがねぇやつだなぁ」
「やっふぅい!それじゃ僕はこれで失礼するよん!じゃぁねー!」
嵐のように去っていくブロントはまたくるくる回って「あだぁ!?」とドアにぶつかるも、今度はスキップで帰っていった。
「…すまねぇなレイナ。アイツ昔っからああなんだ…パーティ組んでた時もしょっちゅうでな」
「そ、そうなんですね」
少しの沈黙の後「あのな」とレイナに声をかけたが、ポーラが「受験者1組3人!帰ってきたよ!」と声を上げる。
「…ま、いい。ほら、俺たちも行こう。冒険者の出迎えだ」
「はい!」
帰ってきたのはロイたちのパーティだった。彼らの装備はあちこちボロボロ、剣は刃こぼれし、弓の弦はかろうじてか細い糸でつながっていて、ポイントアーマーは所々繋ぎ目が千切れていた。
「…受験番号11番、ロイ・テイサー…!魔石を持って、戻りました!」
ロイの鎧はポーラの拳の後以外にも所々凹んでいた。そしてその爽やかな顔の頬には縦一文字に傷が入っていた。
「グスッ…受験番号、6番、ミラ・ファメール…戻りましたぁ…!」
弓を背負っていたヒュリンの少女はへたりと座り込み、泣き出す。
「受験番号18番、ビアガ・ヴァッセン!同じく魔石を持ってきた!」
巨漢の猫のアニヴァは高々と魔石を掲げる。
「よく戻った!この時をもって君たちは冒険者だ!おめでとう!!」
バーンズは一人一人に握手する。試験のうわさを聞き付けてやってきた先輩冒険者や、その場にいたものからは惜しみない拍手が送られ、祝福される。
さらにあとから4人、3人と駆け込むように合格者が帰ってきて、そのボロボロの姿で、合格を噛みしめ、安堵から泣いたり、力尽きてその場に座って動けなくなったりしていた。
一方で悔しさから涙を流すものもいた。あと少し、あと少し早ければと、己の力のなさを悔やむもの、次こそは必ずと心に誓うもの、そして…何であいつらがと、恨むもの。
J級冒険者を証明する木札に魔石がはめ込まれる。木札は冒険者証明書、通称『ギルドカード』となり、昇格するごとにその素材が冒険者ギルドにて変更される。だが魔石だけは生涯ずっと、紛失や砕けたりしない限り使い回される。
受け取ったギルドカードとともに、この試験をともに戦ったパーティと喜びを分かち合う者たち。大体の冒険者パーティはこのまま共に認定試験を突破したもの同士で組む事が多く、またギルドもそれを推奨している。
その日の夜、合格者たちはギルドからの祝いで、街の料理店少し豪勢な料理や酒を口にしたが、喜びを抱えながらも、試験に落ちていったものたちへの複雑な気持ちから完食する者はそう多くなかった。
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一方、街の路地裏でバーンズは一人、干し肉をかじる。冒険者時代から干し肉を自作するほど好んでおり、その味は妹やブロント、そしてもう一人の仲間からも絶賛される腕前である。
しばらくすると陰から「お待たせしました」と、【千の雷】のリーダー、ケイが姿を現す。
「おう、疲れてるだろうに呼び出して悪いな…」
「いえ、今のところ資金に余裕がありますから1週間くらいはこの街で休暇を、と思っていたんですよ」
それを聞いたバーンズは少しバツが悪そうな顔で「…そうか」と言って2つ目の干し肉を取り出し、かじる。
「で、どうしました?わざわざ支部長からこうやって呼び出されるんです。何か特殊な依頼でも?」
「……そうだ。詳しいことはこの紙に書いた、読んだら燃やせ。声に出して読むんじゃねぇぞ?実際にそんな事態になったら受けるか受けないかだけ教えてくれりゃあいい」
ケイはバーンズから紙を受け取って目を通す。その後肩をすくめて紙を破った後、魔法で燃やした。
「…受ける受けない以前に、内容は本当なんですか?」
「さぁな、が…多分そう…いや案外もっと悪いだろう」
「…ま、仲間にはバカンスの場所が変わるかもと伝えますよ…内容は了解です。お引き受けします」
「助かる。んで、今回の合格者で良さそうな奴らはいるか?」
「そうですね…やっぱりこういうのは一番最初に合格したパーティの方がいいのでは?」
「…それもそうか…じゃ、そういうことでな。頼む」
「分かりました」
そう言うとケイは路地裏の陰に消えていった。干し肉かじりながらバーンズはこれから起こるかもしれない物事について考える。こういう時は昔から一番最悪のケースを考えるのだが、今回は過去5番目以内に入りそうなくらい最悪なことになりそうでげんなりする。
「けっ…あーあー…面白くねぇの…」
路地裏の小石を蹴っ飛ばしながらバーンズは冒険者ギルドに帰った。
鉱石魔術師の冒険記 鴨サラダ @kamosarada
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