第5話 楠灯花とメイド喫茶ごっこ
「お、お邪魔します……」
女子の家に初めて入る俺は楠の家へと恐る恐る入っていく。
彼女が言っていた通り玄関に靴はなかったし、家の中がシーンと静まり返っていたので親はいないようだ。
「水野くんは一人暮らしなんだっけ?」
「あぁ、今年の春から」
「凄いね、一人暮らし。料理できそう」
「ほどほどにしかできないぞ?」
「ほんとかなぁ」
親の転勤で俺はここに残るため一人暮らししている。家事全般は小さい頃からやっていたので今のところ困ってはいない。
玄関からリビングへ移動すると彼女にソファに座って待っててと言われたので荷物を床に置いてゆっくりと腰かける。
(凄い家だな……)
辺りをキョロキョロするのもあれなので、上を向くと天井の高さに驚く。
目の前には大きめのテレビ、そしてオシャレな家具と花がある。
暫くぼっーとして待っていると楠が2つコップを持ってやってきた。
「麦茶で良かった?」
「あぁ、ありがとう」
彼女からコップを受けとると一口飲み、目の前にあるセンターテーブルへ置いた。
楠は俺と少し間をあけて座るとスマホを取り出し、テーブルにはノートを広げた。
「さて、水野くん。メニューは何がいいかな? ある程度、私たちで決まったらクラスのみんなで話し合おうと思ってるんだけど」
1から決め始めると時間がかかってしまうためこちらで少し決めておこうということか。
「そうだな……和というテーマは決まったことだし和菓子とか?」
「そうだね。お団子とか……あっ、食べ物のこと考えたら何か食べたくなってきた。水野くん、クッキーは好き?」
「好きだけど……」
「じゃあ、少し待っててね」
楠はバッと立ち上がるとキッチンへと走っていった。
少し待っていると甘い香りがした。クッキーと言っていたのでもしかしたらクッキーを焼いていたのかもしれない。
「お待たせ~クッキーだよ」
「おぉ……もしかして楠は、お菓子作りが得意なのか?」
「得意、ではないかなぁ……たま~に作るけど」
たまにというが楠、お菓子作り得意そうな感じがする。いい匂いするし。
テーブルにクッキーが乗ったお皿が置かれ、楠はどうぞと食べていいよと言う。
同い歳の女子に手作りのお菓子をもらった経験もないのでこれが初めて。
「で、では、1ついただきます」
クッキーを1枚手に取り、食べる。いい匂い、だから美味しいと思っていた。しかし、口の中に入れて食べ物は見た目で判断してはいけないと思った。
(な、なんとも言えない味……)
「どうかな? 美味しい?」
「……う、うん。とっても」
正直に言うべきか迷ったが、ここは美味しいと言わないと彼女を悲しませてしまう。嘘はよくないがこれはつくべき嘘だ。
クッキーを1枚食べ終えると、麦茶をゆっくりと飲む。
「いつもは失敗しちゃうんだけど今日は上手くいったみたいだね」
「そ、そうなんだ……」
俺だけが美味しくな……いのかもしれないが、楠はクッキーを美味しそうに食べている。
「クッキー以外も試したんだけどどれもダメダメで。水野くんは何か得意料理とかあるの?」
「得意料理か……生姜焼とか肉じゃがとか? こだわって作ってるのは味噌汁だけど」
「味噌汁? もしかして隠し味とか?」
「いや、普通の味噌汁なんだけど、昔お爺ちゃんに教えてもらった味なんだ」
「へぇ、それは気になるお味噌汁」
お味噌汁の話はいいのだが、この家に来た目的を忘れそうだ。話を戻さなければと思い、口を開こうとすると楠は「可愛い」とスマホを見て呟いた。
「ね、見てみて。紗綾ちゃん、新しい服作ったみたいで、白雪姫だって」
スマホをこちらに向けてその作ったという白雪姫の衣装を楠に見せてもらった。
「作った……えっ、作ってるのか?」
「うん、そうだよ。手作り。買うと高いから自分で作ってるらしいよ?」
す、凄い……まさか作ってるとは。てっきりコスプレ衣装が売っているところで買っているものかと。
「ね、水野くんはメイド服、好き?」
「メイド服?」
「うん。水野くん、メイド服の話してた時、見たそうにしてたから……と、特別に着てるとこ見せようかなって……ちょ、ちょうど今、紗綾ちゃんから借りてるんだけど」
俺は文化祭の話し合いをするためにここの家に来たはずなのだが、なぜかコスしているところを楠が見せてくれるという。
「俺は別に好きじゃ……」
見たくないといえば嘘になる。前に写真を見せてもらい、これを目の前で実際に見たら凄いんだろうなと思っていた。
「メイド喫茶ごっこしたら何かいい案が生まれるかなって……中学の時、大学の文化祭でメイド喫茶してるところにいったことあるだけでごっこになるかわからないけど」
「な、なるほど……」
そう言えばメイド喫茶のイメージは何となくわかるが、行ったことは一度もない。
文化祭リーダーを任せられたことだし、ここはまずメイド喫茶がどんなものなのかシミュレーションして知っておく必要があるかもしれない。
「参考になると思うんだけど、どうかな?」
「……そ、そうだな。やってみようか、メイド喫茶ごっこ」
「うん、じゃあ、決まりだね。着替えてくるから待ってて!」
「あ、あぁ……」
これからのことは決して俺がメイド服を着た楠を見たいがためにあるわけではない。メイド喫茶が何なのかを知るためだ。
楠がリビングからどこかへ行ってから数分後。そわそわしつつ待っていると楠はゆっくりとリビングへ歩いてきた。
「お、お待たせ……水野くん……あっ、じゃなかった。お帰りなさいませ、ご主人様」
もうメイド喫茶ごっこは始まってるらしく、楠はヒラヒラのメイド服を見に纏い、こちらへやってきた。
(いやもう目が服にしかいかんっ!)
スカートは膝より上という短さで、胸元は少し見えている。白のタイツを下に履いており肌は見えないが、ピチッとしたところにエロさを感じる。
「あっ、こんにちは。てか、凄い似合うな……」
思ったことをストレートに言うと楠は顔を真っ赤にさせた。
「あ、ありがとう……少し苦しいんだけど可愛いよね、この服」
苦しいとは……どこがと問わなくても何となく見てわかるが。
「うん、可愛い。やっぱりスタイルよくて可愛いと何でも似合うな」
「! そ、そんなに言っても何も出ないよ? じゃなくて出ませんよ? ところでご主人様は、何かご要望はありますか? 料理提供する以外のものでお願いします」
料理提供以外って……メイド喫茶ごっこじゃなかったっけ?
「写真撮影とかは?」
「もちろん大丈夫です。お金がかかりますがいかがなさいますか?」
「お金取るのか……。これは文化祭ではやめておいた方がいいな。写真は悪用されたりするかもしれないし」
ごっこを続けながらも俺は文化祭でどうするか考える。
「だね。危険な目に遭うかもしれないし私も撮影とかはやめておいた方がいいと思う。私が後、メイド喫茶と言えばで知ってるのは食べ物提供して萌え萌えきゅんでおまじないするぐらいかな」
「なるほど」
「あっ、着替えてくるね。汚したりしたら大変だから」
「そ、そうか……」
本当は楠のメイド姿をもう少し見ていたかったがしょうがない。
再び1人になり俺はスマホのメモアプリに衣装や写真撮影のことやおまじないのことをメモした。
(やるからには成功させないとな……)
メモを見て考え事をしていると走ってくる音がして、顔を上げる。
「み、水野くん」
「どうした?」
メイド服を着たままの楠は俺の名前を呼ぶと背中を向けてきた。
「後ろのチャックが引っ掛かって脱げないの……チャック開けてくれないかな?」
「えっ、あぁ、いいけど……」
そう俺は簡単に頷いてしまったが、チャックを開けるのがこんなにも大変だとは思わなかった。
「んっ……」
「あっ、ごめん」
「ううん、ちょっとビックリしただけだから」
服越しだとしても触れるのは嫌だよな。さっさとチャックを下ろそう。
「ん、できたよ」
「あ、ありがと」
チャックを開けることができると楠は耳を真っ赤にして走っていった。
クラスの三大派閥のリーダーである美少女達に好かれたら~仲の悪い彼女達を仲良くさせようとしたらなぜか悪化した~ 柊なのは @aoihoshi310
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