第4話 親もいないからいいよ?
翌日。漫画のような楽しく出し物決め、なんてことはなく、予想通りの展開になった。
「反対です。そんな人の来なさそうな出し物は」
「そんなのわかんないと思うけど? 藤咲ちゃんの喫茶店の方が来ないよ。面白さゼロだし?」
「ゼロなのはそちらもです」
意見を出してからバチバチな状態な藤咲と白川。楠とは言うとメイド喫茶と意見は出したが、あの2人の間には入らず、黙って聞いているだけだった。
どうやら楠は、自分の意見が通るように動くことはしないようだ。
2人の口論が続いている中、キリがないと思った文化委員で前に立っている牧原が口を開いた。
「私は紗由の意見に賛成! 杉山くんもそうだよね?」
牧原はもう1人の文化委員であるさんに白川派閥の杉山へ「うん」と頷けと圧をかけていた。
杉山が気の弱い奴だからってそこで頷かせるのはどうなんだ……。
「い、いえ、僕は……白川さんの意見に賛成してます」
「ふ~ん」
「牧原ちゃん、杉山くんをいじめないでくれる? 文化委員は公平な立場でいるべきじゃないの?」
「そんな決まりないし。ね、紗由?」
「そうですね、そんな決まりはありません」
ダメだ。今日中に出し物が決まりそうにない。藤咲と白川はどちらかの意見に賛成する様子はないし、ここは楠が間に入ってどうにかしないと。
体育祭の時のようにギスギスして終わりにはしたくない。高校1年生の文化祭は一度だけ。やるなら楽しいものにしたい。
白川の意見は「和菓子」のお店。藤咲は「喫茶店」。そして楠は「メイド喫茶」。
(誰かが入らないと前に進まないよな)
静かに大きく手を挙げると牧原はそれに気付き、少し驚いていた。
「水野くん、どうかしたの?」
牧原がそう尋ねるとクラスメイトの視線が一気に俺に集まった。
チラッと藤咲の方を見ると彼女はじっと今から何を言うつもりなのかと俺のことを見ていた。
「いや、どれか1つにしようとしてるけど、今出てる3つの意見を1つにしたらどうかなって思ってさ……」
藤咲と白川はどちらかの結果になることばかり考えていて、相手の意見は絶対に通さない。だからこうして他の誰かが新たな意見を出さない限り前には進まない。
「水野くん、1つにって?」
「……そうだな、例えば和服メイド喫茶とか」
「いいね、私は賛成するよ?」
すぐに賛成と言って手を大きく挙げたのは楠だった。
楠がそう言うと楠派閥の人達からは「いいな」と賛成の声が。そして派閥関係なしに男はメイド喫茶というところに食い付き、メイド服を見たいよなと話し出す。
「藤咲さんのメイド服見たすぎる」
「だな。楠と白川も着たら絶対凄いエロいぞ」
「いやいや、牧原も絶対似合うって」
藤咲が昨日言っていた通りやはりメイド喫茶に食いつくのは男だな。
「紗由、どうする? 私は水野くんの意見に賛成だけど」
自分の意見はあるが決めるのは任せる牧原は、藤咲に尋ねる。
「私も水野くんの意見には賛成です。白川さん、あなたはどうです?」
楠派閥、藤咲派閥のリーダーが賛成すれば後は白川派閥だけだ。白川が賛成すれば白川派閥の人達も賛成するだろう。
「藤咲ちゃんの派閥の子の意見に賛成とか嫌だけど、悪くない意見だと思う……」
「ふふっ、だそうですよ? 牧原さん、杉山くん」
藤咲は文化委員の2人に後は任せるようで立っていたが椅子へと腰かけた。
「じゃ、決まりだね。1年2組は、和服メイド喫茶にします!」
牧原がそう宣言するとクラスの皆は拍手し、「頑張ろうな」や「やるなら楽しもうぜ」とやる気のある言葉を口にする。
体育祭の時とは違う。これなら文化祭は大成功するかもしれない。
俺なんかが言っても意味がない。そんなことをずっと思っていたが、行動しないとそんなことわからない。
(発言して良かった……)
ふぅと息を吐き、無事意見がまとまったことに安心していると牧原と目が合った。
「じゃあ、提案してくれた水野くんにはリーダー任せちゃおうかな」
「えっ、リーダー?」
「うん、私もサポートするからさ。文化委員だけじゃ大変だから手伝ってくれると嬉しいんだけど……」
手を合わせてお願いしてくる牧原。リーダーと聞いて無理だと思ったが、手伝うというなら答えは変わる。
「わかった。手伝うよ」
「ありがとっ」
牧原がお礼を言うと藤咲が手を小さく挙げた。
「私もお手伝いしますよ」
「……なら、私も手伝う!」
藤咲に続け楠も手を挙げる。それを見て牧原は「ええっと……」とどうしていいか困っていた。そんな中、白川も手を挙げた。
「私もやろうかな。牧原ちゃん、3つの派閥から2人ずつ出して文化祭の話し合いグループを作るのはどうかな? 決定は皆で話し合うけど、準備する上で指示を出す人は文化委員以外にも何人かいると思うの」
白川のその提案には藤咲も楠も反対する様子はなくなにも言わなかった。
「なるほど……それはありだね。文化委員は他の仕事もあるから私と杉山くん以外に6人。水野くんと紗由、楠さん、白川さんは決定として後2人だけど楠派閥と白川派閥から誰か立候補いる?」
牧原はクラスメイトにそう尋ねると2人の生徒が手を挙げた。
1人は楠派閥の1人である西宮紗綾。こういうことに手を挙げる人ではないと思っていたので意外だ。そしてもう1人は文化委員である杉山だった。
「杉山くん、文化委員の仕事で忙しいから無理は禁物だよ?」
「大丈夫ですよ、白川さん。僕はどちらもこなせます」
「……そっか、なら杉山くん一緒に頑張ろっか」
「はい、よろしくお願いします」
白川派閥の2人は決まったようでそれと同時に楠派閥の2人も決まったようだ。
「紗綾ちゃん、一緒に頑張ろうね」
「うん……」
西宮はコクりと静かに頷くと俺の方をじっと見てきた。
(えっ、怖っ……俺、何かしたっけ……?)
***
無事話し合いは終わったが、細かいことを決める会議は上手くいかなかった。
「この雑誌みたいなピンクがいいな」
「いえ、黒です。それ、短すぎです」
「私は白のフリフリでスカート短めでぇ~」
ダメだ、意見が分かれて進まない。この状況をどうにかしてくれそうな西宮はスマホいじってるし、杉山は爽やかな笑み浮かべている。
(どうしたらいいんだ……)
「楠ちゃんがそれ着て男性客増やすんだね。太股見せて胸、強調して」
「し、白川さん!? そっ、そんなことするつもりで提案してないよ?」
「けど、この雑誌みたいなって言ったし」
「い、言ったけど……」
この後も話は進まず結果、明日にまた集まり話し合うことになった。
(明日もこうなるのでは……)
解散後、1人で帰ろうとしたが楠に誘われ、一緒に帰ることになった。
「水野くん、今日はありがとう。水野くんのおかげで上手く意見がまとまったよ」
ニコッと笑う彼女の笑顔は天使のようで俺はドキッとしてしまう。
「いや、俺はただ意見をまとめたものを言っただけで……」
「ここはありがとでいいんだよ? ほんとに感謝してるんだから」
ここまで言われてしまったら「そんなことはしてない」とは言えない。
「そう、か……」
「うん、ほんとありがとね。この文化祭でみんなが仲良くなれるといいんだけど」
「そうだな」
だからこそこの文化祭は成功させなければならない。残された日はそこまであるわけではない。
「ね、今から私の家で作戦会議練らない? 文化祭を成功させるためにさ」
「い、家に?」
「う、うん。親もいないからいいよ?」
髪の毛を触りながら何かを期待させるような雰囲気を醸し出す楠。
(こ、これは……)
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