異世界転移した俺が、死ぬまでの日記。

沼津平成

第1話 トゥ・レソフ

 ここはどこだ。

 どこなんだ。

 おい。

 おい!

 人はいないのか?

 おい、誰か!

 ……やっべ、本当にいないらしい。

 それにしても困ったなぁ。

 つい数分前まで、この社会は本当に俺抜きで回っていたのに。

 頬杖をつく机がないから、今は岩で代用してる。

 ほんっと、変なところにだけ気が回るよな。

 夢か?

 と疑いたくなって、頬杖をつねる。

 こんな時こそ、自分を冷静に、”客観的”に見ることができる。

 双眼鏡みたいに?

 ウーウ、俺この言葉嫌いかも。

 ここはどこだ。

 果たして本当にここは生活が可能か?

 地球とは程遠い、どこか別の星か。

 おーい。

 助けはいないのか。

 俺は生きられるのか。

 真夏だ。

 燦々とした太陽、朦朧とした意識。

 順調に俺は死んでいた。

 その時、——嗚呼、なんということだ——太陽が俺に話しかけてきた。


「自分の足元を見下ろしなさい」


 そうだ、俺の足元には島がある。

 だが、それはもう役に立たない。

 俺は今この島で一番高い岩に立ち、海へ体を投げた。

 ただ、体に力が入らない。

 まるで神が俺の体を引き留めているようだ。


「其方には、隠してもだめなようだ」


 そう言って現れたのは、天真爛漫な女だった。



——天使。


 世の中にはその女のことをそう呼ぶことがいる。


——妖精。


 これは天使の進化版。もっと可愛らしい天使ということだろうか。ここまできたら人間の独断の性的欲求の域に入ってくる。

 俺、どうかしちゃった。高校生の頃から校則ギリギリのエロ漫画を所持していたせいか。

 いや? 校則なんてものがない無法地帯の高校に俺は通っていた。高校2年で事故で両親を失くすと、俺は高校を中退し、いよいよフリーターとして世間に認められないまま男になった。

 俺にとっては、世間は小さい。

 しかし俺の身の回りで十分世間だ。

 そう、世間は俺のことを「フリーター」と呼んだ。

 そして俺は今、絶海の孤島にいる。

 これは何かの迷信だろうか。

 美女が俺の足元で必死に状況を説明しているが、重要なところだけしどろもどろになり、挙げ句の果てには外国語を発した。


「すみません、ニホンゴ、と……」


 そう言いながら彼女は大辞林を繰る手を止めない。

 天使は可愛い。

 しかしこの世界は絶望で満ち溢れている。

 周り約2キロの楕円。

 文明などない陸地。

 服を脱ごうか?

 ボトルメール?

 ここは瓶も手紙も万年筆もない。

 スマホ?

 俺はズボンの内ポケットを探りながらスマホを出した。隅にこじんまりと「圏外」の文字。ここが海というせいか、目が霞んでよく見えないが、いやに「圏外」だけがよく読み取れるなあ。

 そう、ここは孤島だ。

 俺は今から、どうやらこの孤島で生活するしかないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日・火・木・金・土 19:30 予定は変更される可能性があります

異世界転移した俺が、死ぬまでの日記。 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ