第2話② 血液と〇〇と寿命
◇
シャワーから出て置いてあった黒いバスローブを羽織る。包帯は場所が分からないから後で天に変えて貰うとしよう。甲斐甲斐しく世話を焼くのが意外と好きみたいだし。
「ちゃんと匂い落としてきた?」
天の声にビクッとする。ドアのすぐ横で腕を組んで壁に寄りかかっている。相変わらず笑顔だけど、やっぱりまだ機嫌悪そう。それにしても無駄がない体付きをしている。肩幅広くって腰細くって足長いってチートかよ。
「お兄さん、青色の方が似合いそうだね」
この人っていつも気配消していて心臓に悪い。
――――心臓なんて、もうないけど
色なんてどうでもいいが、暫くここに住ませるのは本気みたいだ。
俺は彼の横の壁に手をついて、耳元で囁く。
「匂い落ちた?」
天の指が首元に触れて下にスイーっと滑っていく。ローブの軽く交差して引っ掛けただけのベルトをそのまま解く。
「ん~……」
片腕を彼の腰に回して引き寄せる。
「もっと近くで嗅いでみてよ」
「ふふ。僕の機嫌取り?」
「だってあんたの機嫌が悪いのは怖いもん」
「じゃあ、もっとしっかり機嫌取りに来てよ」
「了解」
彼のズボンのベルトに指をかける。
◇
ズチュ ズチュ ズチュ
「あ……あ、ん! はぁ……あ!」
シーツに押し付けられた天が尻だけを上げて全身で喘いでいる。後ろから腰を打ち込む度に濡れた音がする。奥の方でグリグリと押し付けると一気に締まる。そのまま天のを軽く握る。
「ぁあ!」
それだけで手の中で熱い精液が迸る。
「……っ!」
後ろがうねって俺も軽くイキそうになってしまう。目を閉じて深呼吸しながら耐える。数秒休んでいると天が自分から腰を打ち付けてくる。
「ふっ……う、あ……あ、んん」
「……どんだけ、体力、バケモンなんだよ!」
ベッドの上には使用済みのゴムがもういくつも散乱している。俺は左手で天の右肩を掴んで上半身を立たせ、右手で彼の乳首を爪で引っ掻く。
ヌチュ
パンッ パンッ パンッ
「ひ、あぁぁぁああ!」
激しくすればする程、天の中が濡れてくる。もう内腿がビチャビチャになっている。黒髪が乱れて汗で濡れている。
「……阿緒!」
初めて自分の名前呼ばれてぞくぞくする。ぶるっと身体が震える。
「……イクッ!」
一番奥で行くのと天がイクのは同時だった。
はぁ はぁ はぁ
彼の肩に頭を乗せて呼吸を整える。胸の露出している傷がズキズキと痛む。
◇
「これはまた、すっごい美味しそう!」
今回は豚の角煮、茄子と野菜の煮浸し、もずくの酢の物、具沢山の味噌汁、ごはん大盛りが出てきた。こってりさっぱりの割合が最高かよ! 角煮に乗っている白ネギが綺麗な山盛りになっている。卵の半熟の黄身がトロリと角煮に絡む。
「いただきます!」
うきうきした声でつい顔が緩んでしまう。豚の角煮がホロホロし過ぎてお箸で梳くって食べる。煮浸しだって、これ、絶対に出汁から取っているだろ! 香りが鼻から抜ける感じで美味い。凄いよ、人参も大根も飾り切りが職人技。この酢の物の隠し味のピリ辛は最高。白米もなんかいつもよりもプリプリしていて甘い気がする。
俺ががつがつ食べるのを天がにこにこしながら見ている。機嫌はすっかり直ったらしい。襟から俺が残した赤い痕が見え隠れして、それにちょっとドキッとする。
あの後傷の手当をして貰った。血清の効果は盛大で胸の傷はかなり塞がっていた。包帯を止めてガーゼを当てるだけにした。
「最高に美味しい! 俺、天の料理大好きだな」
「うふふ。僕に胃袋を掴まれちゃった?」
「完全に鷲掴みにされてしまった」
俺の素直な返答に益々嬉しそうにする。多分、だけど。相変わらず目が笑っているかいないかは分かり難い。
俺が規格外な量を消費するのに対して、天も結構な量を食べるらしい。夕飯で彼の肉を大半貰った事を思い出す。本当に面倒見が良い。
「ねぇ。俺って、何?」
「生物学的にはオスで三分の一人間、三分の一――――」
「じゃなくって! この状況だってば!」
「ん~……」
天は白ワインを黙って一口飲む。ボケていても本当に無駄に優雅な動きをする人だ。
――――民話のバンパイアってこんな感じのイメージかな
やたらと黒と赤が似合っていて、ワインを飲んでいる。天が飲んでいるのは白ワインだけど。
「暇潰し? 玩具? ペット? セフレ? 恋人?」
「ん~……」
都合悪くなると答えないのは癖なのか。
「俺、これからどうすればいい?」
「あは、どうしようか」
「考えなしで俺を拾ってきたのか」
「だって面白そうだったもん」
「……」
「じゃあ、玩具から始める?」
「ぇえ……」
『じゃあ』って俺のこれからをすっごい適当に決められた気がするのはなんか納得がいかないのだが。
「ふふ。じゃあ昇格ありで、衣食住、怪我のアフターケア込み――――」
――――昇格って仕事かよ
天が目を細めて笑いながら続ける。
「――――あとは必要なら僕のバック」
料理を食べる手を止めてしまう。天はワイングラスを置き、ついーっと手を伸ばして箸を持つ俺の手を長い指でつんつんと突っつく。
「どう? お兄さんには悪くない条件だと思うよ」
いや、悪くないなんてレベルじゃない。こんなに最高な条件なんて一生に一回あるかないかだろう。生活の面倒見て貰って仕事の支援あり。天はまだ誰なのかは知らないけど、色んな意味でとても凄い人なのだと勘がいっている。天が言う支援はきっと対人、対バンパイア技術や殺人技術なのだろうと推測出来る。あとは必要な人脈への紹介。そんな人に支援して貰えれば俺は――――。
俺は箸を置いて椅子の背もたれに寄りかかり天を睨む。
「見返りはセックスだけじゃないよな? 何が欲しい?」
ガチャッ
気付けば天は近距離で銀製の箸先を俺の頸動脈に軽く押し付けている。目に見えないスピードでテーブルに片膝を乗せ、腕を真っ直ぐ俺に伸ばして。腕に隠れて口元が見えないけど、目の瞳孔が開いている。あの路地裏にいた時みたいに、物凄く生き生きとしている。脂汗がブワッと全身から噴き出る。
「……」
「あはは。折角いい気分なんだから僕を怒らせないでよ」
「……ごめんなさい。天が凄く魅力的で色っぽくていい男だから抱きました」
スーッと箸が首から離れる。天の殺気に戦慄する。動悸が激しくなり息が切れる。後から恐怖で手がカタカタと震える。
「ふふ。今は暇潰し。何か欲しくなったらその時に言うよ」
大人しく自分の席に戻った天の前を見ると見事に食器が一ミリも動いていない。ワインもグラスの中で静かで透明な海みたいに全く揺れていない。
――――何この人、やっぱり人間じゃないよ。あと、今、さり気無く俺は一番格下に降格されていなかったか?
「でも」
天がにやりと笑う。箸をくるりくるりと中指の周りを回転させている。長い指が妙にエロい動きをする。
「僕は何か欲しくなったら奪い取るよ」
「お願いだからその時は殺さないで下さい」
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