副題のハンバーグと春雨はひき肉とお腹の中に納まった消化器官の様子みたいな感じがします。料理の場面が早いうちに見せてそこからオレンジがかったコーンスープ、柑橘系の何かも出てきます。
オレンジがかったコーンスープは他にもタイトルの煤と黒い靴下、パステルイエロー、生血と繋がってる感じがします。
食と色でシンボルが繋がっているから、散文的な主人公の自意識の描写がまとまっています。
小説で不確かな精神を表現するのって矛盾します。だって不確かな人は雄弁に語ったりできない。だから散文的に書かないといけないのだけど、それだと文章として伝わりづらい
この物語では不確かな精神を書くためにすごく丁寧に散文的に節々を綻ばせてあるのだけど、食と色の2つのシンボルが軸にあるので伝わりやすい。しかも『さまざま奪われて食と色にしか感知が向かない状態』と読めてすごく自然。うまいです。
おすすめです。
このお話は、第二回人生逆噴射文学賞「大猫昔話賞」受賞作です。恐らくWEB小説向きではないでしょう。それでもカクヨムを選び公開してくださった作者様に、まずは深く感謝を。
読了後にタイトルの「煤」を調べてみましたが、「煤」は有機物が不完全燃焼した際に発生する炭素の微粒子だそうです。
では、不完全燃焼とは――?
酸素不足の状態で正常な燃焼ができないことです。せれにより一酸化炭素が発生し、一定値を超えると身体に異変が生じます。
作者様はいつも言葉を大事にしています。言葉の一つ一つに意味があって、私たち読者の感性をいつも刺激してくれる。
このお話はタイトル通り、ひとりの女性が酸素を奪われ煤け毒されていく様相を一貫して描いています。
とんでもなく重いですし読後感は最悪ですが、それが本当に素晴らしい。
皆さま! 作者様が手の届かぬ場所へ行ってしまう前に読みましょう。今ならまだ古参ファンを名乗るチャンスが生きていますよ! ぜひ!