2
教室に着くと何故か俺の後ろを走って、追いかけてきていた幼馴染――雫が既にいた。
なに、お前瞬間移動でもしたの?
しかも、盛大な溜息まで吐いている。
「はああぁぁあぁー」
「どうしたんだよ」
「まじで許せない。自分を殺したい。イケメンアイドルにときめくとか無理、自分キモい」
「別にアイドルに恋したっていいんじゃないか」
「ダメ! 私には一途な所以外、良いとこ無いもん。ずっと秋良を好きでいるって決めてるのに……」
「そんなことねーよ。過小評価し過ぎだ。雫は可愛いよ。良いとこリストに追加しとけ」
「ちょっとトイレ行ってくる」
そういや、あいつ最近様子おかしいよな。何があったんだろ。
――数十分後。雫がトイレから戻ってくる。
俺とは目も合わせずに自席へと戻っていく雫。あれ? 嫌われた?
雫は無表情かつ虚ろな目をしていた。
そのまま二人は会話を交わさずに時だけが過ぎ、気づけば昼休み。
「可愛い」と言ったのがダメだったか……セクハラだったか……反省。
俺は雫の席まで向かう。謝る為だ。
「雫、可愛いって言ってごめ――」
「――秋良とは距離を置きたいの」
「えっ!?」
雫らしからぬ驚きの発言。
以前、雫は言っていた。秋良成分がどうたらこうたらで定期的に摂取しないと、倒れてしまうとかなんとか。距離置いたら、雫倒れない?
そこだけが心配だ。
「なんて嘘。ずっと一緒に居たい」
「どっちだよ」
「その代わり、いま付き合ってる彼女と別れて? 好意を捨てて?」
え――。
彼女なんていないのに。
もしかして、夢の中の女の人のことか?
「俺、彼女なんていねーよ?」
「嘘。いる。匂いがする」
うーん。しょうがない。
雫に嘘は吐けないって分かっているので、夢の中の人の事をカミングアウトした。
すると、表情がガラリと変わった。
怖いけど慣れてしまった、狂気的な瞳。荒い息遣い。
冷房の風で
「ふーん、そっか」
「ごめんなさい」
「私、まだ何も言ってないよ?」
「……」
「――例え夢の中であっても、私以外の女と関係を持っちゃダメ。分かった?」
「はい」
「じゃあ、別れてね。夢の中で」
夢の中で別れるって滅多に聞く機会が無い言葉だよな。
「分かった」
「他の女と完全に関係を断つまで、私、秋良と口利かないから」
こえええー。
夢の中で別れるってどうしたらいいんだ?
とりま、俺から別れ話を持ちかけるくらいしか方法無さそうだな。
て、毎晩あの人の夢を見るとは限らないのに、何故俺はあの人が毎回夢に出てくる、と信じているのだろう……?
――その夜は夢を見なかった。つまり、明日は雫と一言も会話が出来ない。
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