第5話

 数太がキャッチのバイトから自分のワンルームのマンションに戻ったのは、深夜11時半過ぎだった。数太の部屋はこんな感じだった。玄関脇に簡単なキッチンがあった。キッチンの前に洗面台と洗濯機があり、更にその横にトイレ付きのバスルームがあった。キッチンと居間を仕切っていたのは、引き戸だった。戸を引くと8畳のリビングだった。そこにはソファー、テーブル、ベッドの外に、ミシンを据えた机と、机の横にトルソーが立ててあった。

 明日の夕方、数太の20歳の誕生日に、玲奈がこの部屋に来て一晩泊まる事になっていた。玲奈は、心配性の両親とバツイチで2つ上の姉と同居していた。外泊には、周到(しゅうとう)な言い訳が必要だった。だから玲奈は滅多に外泊をしなかった。

 数太は小便をしながらバスルームを見渡した。

「風呂の掃除は、明日、学校に行く前にするとして……」と独り言をつぶやいてトイレを流した。それからリビングに戻って床を見渡し溜息をついた。6月のコンペに出品する作りかけの服が、足の踏み場もないほど散らかっていた。去年のコンペではアワードを受賞した。「今年もやるぞー」と意気込んで絵を画き始めたが、ちょっと自信がなかった。

「こいつだけは、片付けるか」と胡坐をかき、生地のパーツを慎重に一箇所に重ねていった。一段落着くと12時を回った。

「フゥー」とその場に寝ころび、スマホを手にした。

(そう言えば、ラインの文字化け、あれは不思議だったなぁ)

数太はラインを開いた。数太のスマホの文字は化けていなかった。

(乗っ取られたってことはないだろうけど、まあ、念のため)とパスワードを変えた。

(あれも変だったよなぁ)と思い出した。

(バスの中で画像を見た時には、千切れた右手首は、レールのこちら側に転がっていたのになぁ)

数太は画像を開いてピンチアウトで拡大した。

(ううーん。右手首を左手が握っているように見えるなぁ~。バス、結構混雑していたし、揺れていたから、いい加減に見ていたのかなぁ~)

ちょっとゾクッとした。

(消すの惜しいけど、気持ち悪いと言えば、気持ちわりいし……)

数太は少し悩んでから画像を削除した。

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