第2話

 復旧の見込みがたたないと駅構内にアナウンスがあった。数太は振替バスに乗った。12時40分を過ぎていた。現場に居合わせたので警官の尋問を受けた。それに手間取った。

(まったくもう……。1時からのグレーディングの授業に間に合わないよ)

バスは振替の客で混雑していた。数太は吊り革から手を離し、同級生の希(き)翔(しょう)にラインをした。

『事故で、電車が止まってさぁ。遅れるって先生に伝えて。よろしく』

少し苛立っていた。背をかがめて窓外を見た。新宿の高層ビルはまだ見えなかった。

(希翔、自殺現場の画像を見たら、びっくりするだろうなぁ。こんな画像、なかなかお目にかかれないからなぁ)

周りを見渡した。乗客のほとんどはスマホをいじっていた。数太は画像アプリを隠しながら開いた。

(やっぱ、スゲェ)

死体は伏せた状態だった。腹部から赤黒い臓器が流れていた。手前のレールのすぐ向こうに頭があった。首は不自然に曲がっていた。右手首が千切れ、手前のレールのこちら側に転がっていた。左腕は裂けて、白い骨が覗いていた。肉片が散らばっていた。全体が赤黒い血に光っていた。

(こりゃーマグロと言うより、ミンチだなぁ)

数太は飛込む寸前の女と目が合った。数太は、

(確か、笑っていたようだったけど……)と思い出した後、

「意外と美人だったなぁ」と声にした。声にしてハッとした。回りをうかがった。誰も声に気付いていなかった。数太は唇を引き締めた。

(オレ、こんなの撮って、悪趣味かなぁ……)

紺色のロングカーディガンは電車の排障器(はいしょうき)に引っかかっていた。血に濡れたTシャツはスカートのウエストからめくれ上がっていた。ウサギのキャラクターが付いたサンダルの片一方が、向こうのレールの外側に転がっていた。よく見るとウサギは黄色い花を咥えていた。希翔からラインのレスが来た。

『何? 分かんねぇ』

数太は、(はぁ?)と思った。

『だから、電車が止まったって。事故で。飛び込み自殺があってさぁ。それも、オレの目の前で』

すると希翔は、『了解』のプラカードを手にしたC-3PO(スターウォーズのキャラクター)のスタンプを送ってきた。そして、

『そうなんだ。オマエ、変なライン送ってくるから、意味わかんねぇし』と送信してきた。

数太は首をひねった。

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