突然出来た義理の姉達に囲まれています

ナカジマ

再婚から始まる義弟生活

 親が再婚する、と言う経験をした高校生はどれぐらい居るのだろう。日本の離婚率は凡そ35%程度だと言われている。

 その中に含まれる片親の家庭は120万世帯ほどあるらしいが、その内の何%が高校生の家庭だろうか。ちなみにうちの家庭も、その120万世帯に含まれている。

 俺が小学生の時に事故で父親が亡くなり、高校生になるまで母親と2人で生活して来た。

 高校1年の夏になるまでは、ずっとそうだったんだ。普通の母子家庭だったんだよ、ついこの間までは。


雅人まさと、お母さん再婚するから」


「急じゃない? 別に良いけどさ」


 本当に突然、母親である浜崎実里はまさきみさとがそんな宣言をした。ある夏の日の夕食の場で、再婚が発表された。

 これから俺が大学に行こうと思うなら、母さん1人の収入では厳しい。現実的に考えたら、男性との再婚は理にかなっている。

 俺がバイト学生をするよりも、遥かに経済的な余裕が生まれる。それにこれまで女手一つで育ててくれた恩もある。

 いい加減1人の人間として、幸せを求めてくれて構わない。元々家事も手伝って来たし、1人で過ごす日も少なく無かった。

 今更母親が自分の幸せを求めた所で、俺が生活出来なくなったりはしない。何なら新婚旅行を半年ぐらいしてくれたって問題はない。


松本聡まつもとさとしさんて方でね、実業家の人なのよ」


「……良くそんな人見つかったなぁ」


「で、あんたより歳上の娘が4人居るのよ」


「…………は???」


 え、待ってくれ何だそれ? 義姉がいきなり4人も出来るのか? この家じゃあ狭くないか?

 義理の父と義理の姉が4人、そして母さんと俺。どう考えても部屋の数が足りていない。小さなアパートの1室では、6人家族なんて生活出来ないぞ。

 小学生の子供達じゃないんだから。急に大家族並みの密度に変わってしまった。これからどうやって生活していくんだ?


「うちじゃ狭すぎるでしょ」


「私達が引っ越すのよ。当たり前じゃない」


「あっ、そりゃそうか」


 と言う事なら俺は転校する事になるのだろうか? 結構仲の良い友人達も居るんだが、仕方ないよな引っ越すのだから。それにSNSだってあるのだから。

 俺にとって人付き合いはそれほど苦ではない、よほど変な学校でも無い限りは何とかなるだろう。

 問題となるとしたら学業のレベルだ。今の学校よりも頭の良い学校だと、それなりに苦労しそうだ。

 そして最近は、校内にプールが無い高校も増えて来ている。もし水泳部が無い高校だったら嫌だな。

 水泳を辞めたくはないなら、最悪の場合はスイミングスクールのみで頑張るしかないか。


「転校手続きとかはいつ?」


「転校なんてしないわよ? 同じ学区だもの」


「へ? そうなの?」


「住む家と通学路が変わるだけよ」


 なんだ、それだけで済むのか。それなら別に構わないか。それにしても義姉が4人も出来るなんて、ちょっと不安もあるけど楽しみでもある。

 俺は一人っ子で兄弟の居る家庭が羨ましかったから、義姉だけとは言え家族が増えるのは嬉しい。

 でも受け入れて貰えるだろうか? 女性が4人で暮らしている所に、俺みたいな男が混ざると言うのは。

 父親も居るとは言え、ほぼほぼ女の園だ。迷惑を掛けない様に気をつけよう。母さん以外の女性と生活した経験は無いけど、仲良くやっていけるだろうか。

 再婚する前までは、そう不安に思っていたんだけどな。それがどうしてこうなったのだろうか。


「ちょっと! 真姫姉まきねぇ、邪魔しないでよ!」


「良いじゃない別に、アンタ1人だけの弟じゃないでしょ!」


真莉姉まりねぇ、真姫姉、喧嘩は良くないって」


 再婚した母に連れられ、松本家の一員となった俺を迎え入れてくれたのは4人の義姉達。その内2人は俺の知っている人だった。

 同じ高校に通う17歳で1つ年上の義姉、四女の松本真莉まつもとまり。女子水泳部でエースをしている有名人だ。

 茶色に染めたショートカットが良く似合う、健康的でスポーティなタイプの美人な女子高生である。


 その真莉姉と小競り合いをしているのは松本真姫まつもとまき。2つ年上の同じ高校で生徒会長をしている文学少女だ。

 眼鏡の似合う知的な印象の美少女だが、意外と気が強かったらしい。猫被り、とは違うみたいだがイメージとは違った。

 黒髪をボブカットにしており、フレームレスの眼鏡を掛けている。口元のホクロが中々セクシーな女性だと思う。

 そんな2人がリビングにあるソファの前で、何故か俺を取り合っていた。1人ソファに座る俺は、どうしたら良いのか分からない。


「まーたやってんじゃん。懲りないねぇ」


「ちょっ!? 真夜姉まやねぇ!?」


「おー? 何だぁ? お姉ちゃんのが、気になるのかなぁ?」


 ニヤニヤといたずらが成功した子供みたいに、次女の松本真夜まつもとまやが俺を笑いながら見ている。

 4つ年上で女子大生をやっている真夜姉は、派手な金髪に派手なネイルをしたギャル系の義姉である。

 真夜姉は今みたいに、わざと自分の胸を頭に載せて来たりする。こうして俺を誂っては、楽しそうに笑っているのだ。

 たまに風呂場にまで突撃して来るので要注意だ。俺の平常心と理性が日夜試されている。

 義理とは言っても義姉なのだ。勘違いしてはいけない。きっと弟が珍しいだけだ、深い意味はない。


「ほら貴女達、まー君が困っているでしょ」


真央姉まおねぇ!」


 それぞれ個性的な義姉達、その長女である松本真央まつもとまおがリビングにやって来た。8歳年上の穏やかな女性で、主に松本家の料理を担当している。

 緩くウェーブをかけたロングヘアと、にこやかな表情がシスターの様なイメージを連想させる。

 真央姉は実際に聖母かと思うほどに高い包容力がある。松本家の母親代わりとでも言うのだろうか。こうして妹や弟の仲裁役をこなしている。

 4人とも女性にしては背が高い方で、170cmを少し超えただけの俺とあまり変わらない。こうして体格の良い5人が揃うと、中々の密度を感じざるを得ない。


「まー君、耳掃除をしてあげるからこっちにおいで」


「えっ、いや、それぐらいは自分で……」


「さあ、まー君」


「あーーー!? 真央姉が抜け駆けしようとしてるー!?」


 真莉姉が叫び声を上げると、今度は真央姉と言い争いを始めた。歓迎されているのは良いけど、4人共どうにも距離感がおかしい。

 姉弟って、こんなに距離が近いものなのか? 俺が知らないだけで、こうして毎日スキンシップを求めて来るのだろうか?

 正直こちらとしては、嬉しい様な恥ずかしい様な。4人姉妹だったからこそ、弟が出来て喜んでいるのは分かった。

 姉として弟と接したい気持ちも分からなくはない。俺だってこんな美人の姉達に囲まれて、非常に嬉しいと思っている。


「「「「雅人!(まー君)」」」」


「あ、うん今行く」


 俺はソファから立ち上がり、義姉達の輪に混ざりに行く。色々とドキドキさせられる事は多いけど、4人の義姉達と仲良く暮らせそうで良かった。

 ちょっとだけ距離感がバグっている気もするけれど。そんな義姉達に囲まれて、俺は幸せな日々を送っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

突然出来た義理の姉達に囲まれています ナカジマ @wendy-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説