第2話
山小屋に戻って、ボクが毛布代わりに使っていたボロ布の隣に、連れ帰った奇妙な生き物を置いた。心なしかさっきよりも弱っているような気がするけど、今は様子を見ること以外にボクにできることは無い。
少し不安になりながらその生き物の様子を眺めていると、お腹の底から鉄の味がする液体がせりあがってきた。
「ケホッ、ゲホッ!!」
手で口を押えるのが間に合わず、連れ帰った生き物の真横に血液が飛び散った。
「ご、ごめんね。今拭くから。」
ボクは、すっかり血の染み込んだタオルで飛び散った血を拭こうとした。すると、弱ってしまったのかと思っていた生き物が、自分でグニグニと体を動かして、飛び散った血を吸い取り始めたのだ。
「…………キミのご飯は血でいいんだ。あはは、それなら十分足りるかも。」
ボクのご飯はないけど、この生き物がボクの血を食料として生きれるなら、それはそれでいいかも。こんなボクでも役に立てるんだから。
「キミは頑張って生きてね。」
また動かなくなったその生き物を撫でていると、急に眠気が襲い掛かってきて、ボクは眠りについてしまった。
◇
次にボクが目を覚ますきっかけになったのは、不意におでこがひんやりと冷たくなって、少し重さを感じた時だった。
「あ…れ?」
目を覚ますと、おでこの上に拾ってきた生き物が乗っかっていたことに気が付いた。その生き物をひょいと持ち上げてみると、拾ってきた時とは打って変わってかなり元気そう。
「元気になった?」
そう問いかけると、ボクの言葉を理解しているのかはわからないけど、その生き物はプルプルと縦に震えた。
「あれ、このタオル……血で真っ赤だったのに真っ白になってる。」
いつもボクが血を拭いているタオルは、血で真っ赤だったはずなのに、新品同然のように真っ白になっていた。
「この血も飲んだのかな。どうやったんだろ。」
そんなことを疑問に思っていると、ボクのお腹が空腹を知らせてぐぅぅ…と鳴った。その音を聞いたあの生き物はビクンと反応し、ぴょんとボクの手から離れると、その姿からは考えられないほどの速さで山小屋を飛び出していった。
「あっ…行っちゃった。」
唯一の話し相手がいなくなってしまったことに少し寂しさを感じていると、すぐにあの生き物はこの山小屋に帰ってきた。
「あ、あれ帰ってきたの?」
帰ってきてくれたことに少し安堵していると、体の上にリンゴのような果物を乗せていることに気が付いた。
「それ、リンゴ?」
そう問いかけると、その生き物はボクの手に押し付けるように、それを渡してきた。
「食べていいの?」
またまたそう問いかけると、その生き物はプルプルと体を縦に震わせた。このプルプル体を振るわせる行為は了承している……ってことなのかな?
「ありがとう。じゃあ、いただきます。」
ボクは皮ごとリンゴのような果物にかぶりつく。売り物のリンゴのように甘くなくて、酸っぱさが口いっぱいに広がるけど、お腹を満たすためにボクは必死にお腹に詰めた。
「ごちそうさまでした。ありがとね。」
この生き物のことを撫でていると、ふとこの子には名前が無いことを思い出した。
「ねぇ、ここだけでいいんだけど…キミの名前考えてもいいかな。」
そう問いかけると、プルプルと震えて多分了承の意思を見せてくれた。その反応を確認した後で、ボクはこの子のことを両手で持ち上げると、名前を考え始める。
「うねうね…触手みたい。触手……。」
触手で思いついたものを頭の中で並べていくと、全部魔物図鑑で見た魔物の名前が思い浮かんでくる。その中の魔物の名前からある言葉をとって、この子につけることにした。
「キミの名前は
確認をとってみると、プルプルと震えて反応を返してくれた。
「えへへ、それじゃあテンタ、よろしくね。」
これからボクは、残る余生をこのテンタと共に山小屋で暮らしていくことになった。
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