触手の恩返し〜あの時助けた触手に今はボクが助けられてます!?〜
しゃむしぇる
プロローグ 少年と謎生物の出会い
第1話
「ケホッ、ゴホッゴホッ。」
寂れた古い木造建築の山小屋に乾いた咳の音が響く。この咳は他でもないボク自身のもの。咳が出ていた口を押さえていた手を見てみると、べっとりと血が付いている。
「また血が……今日何回目かな。」
最初は白かったタオルも、毎日毎日吐血を拭っているせいで、真っ赤に染まってきている。
ボクの体を蝕んでいるこの病の名前は『
幸か不幸か、ボクはもともと魔力を多く生み出せる体ではなかったらしいから、病の進行は普通の人よりもずっと遅いらしい。
そしてこの敗魔症は人から人に移る病気で、敗魔症に侵されている人間の近くで他の人が魔力を使うと、魔力を回復するために体が取り込む魔素と一緒に体に入ってしまうという。
そんな病気の性質のせいで、ボクは孤児院から兵士の人達に連れ出されて、このボロボロで隙間風がそこら中から入ってくる山小屋に捨てられてしまった。魔物がうじゃうじゃいるような危険なところに放り出さなかったのは、たぶんちょっと情けみたいなのをかけてくれたんだと思う。
どうせ治療法がないなら、情けをかけてもかけなくても未来は変わらないと思うけど……。
「お水……汲みに行かなきゃ。」
もちろんここには飲み水も食料もない。それが初めてわかった時は、遠回しにサッサと死ねって言われてるような気分になったのをよく覚えてる。
明日になったら、動けなくなってしまっているかもしれないし。まだ飲み水を汲みに行くぐらいの元気がある今のうちに飲み水を汲んできておかないと。
「よい…しょ。」
ゆっくりと立ち上がって、山小屋の扉を開けて外に出る。すぐ近くに小川が流れているから、飲み水はそこから汲んでいた。
「明日の分も多めに汲んでおこう。」
山小屋に備えてあったものの一つ、雑な造りの木製のバケツで小川から水を汲み上げる。今はもう筋力もかなり衰えてしまって、この水がいっぱいに入ったバケツをたった一回運ぶのでさえ、ボクにとってはかなりの重労働だ。
「ふぅ、あとは帰るだけ……ってあれ?」
水がいっぱいに入ったバケツを手に、山小屋に戻ろうとしたとき、上流の方から何かが流れてくるのが見えた。
「なに…これ。」
川の流れに従って、ボクの目の前に流れ着いてきたのは大きなヒルのような、うねうねと体が動く軟体動物。この奇妙な生き物の体には、折れた矢が刺さっていたり、ナイフで切り付けられたような切り傷が、体中に刻まれていた。
「う、動いてるってことは生きてる……よね?」
普段ならこんな得体の知れない生き物には触れたいとも思わないはずなのに……。なぜかこの時は勝手に体が動いて、ボクはこの生き物をそっと川から引きあげていた。
「た、確かこの辺りには薬草があったはず。」
ボクは孤児院にいた時に読んだ本の記憶を引っ張り出して、周りに生えている薬草を引っこ抜いて、その生き物のところに持ってきた。
「ちょっと痛いかも…ごめんね。」
そう一言声をかけて、その生き物の体に刺さっている矢を一思いに引っこ抜く。すると、矢が抜けた瞬間ブシュッと血が噴き出して、柔らかかった生き物の体が一瞬ガチッと硬く固まった。
「ご、ごめんね、痛かったよね。」
矢を抜いた生き物の傷口に薬草をぎゅっと絞った液体を、ぽたぽたと垂らして体全体に塗り込んだ。そして自分の服をちぎって、包帯代わりにぐるぐると巻き付けた。
「治療が合ってるかわかんないけど、きっとこれで今は大丈夫。」
そしてボクは飲み水と、その奇妙な生き物を抱えて山小屋に戻るのだった。
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