第6話 彩葉

「おはよう! 今朝は寒いね」


 モコモコのベージュのマフラーに白のダッフルコートを羽織った彩葉いろはは、天真爛漫で男女問わずに人気者だった。いろんな人から声がかかる。挨拶されるとすぐに反応して笑顔で返答する。えくぼが可愛いと、みんなから言われる。そんな彼女にも笑顔の裏には悩みがあった。友達はたくさんいても、彼氏を作ることはできなかった。好かれていてもそれ以上深い関係になることは難しかった。表面上の付き合いだ。


「彩葉、今日、カラオケいける?」

「うん。もちろん。任せて!」

 女子たちからの誘いも多い。なるべく断らないようにしていた。授業が始まるとふっと小さなため息をついた。好意を寄せる学級委員の理玖りくの姿を見た。窓の外を頬杖をついて見つめている。

 今日も後ろから眺めて終わりなんだろうなと諦めていた。休み時間にトイレに席を立つと廊下で理玖と鉢合わせした。


「彩葉、昨日の回収ノート出し忘れてたぞ」

「マジ? 何の教科だっけ」

「数学」

「わかった。後で持っていくよ」

 ふと、理玖は彩葉の頭をポンポン撫でた。

「あんま、無理すんなよ?」

 彩葉の心臓が、激しく動き出した。

「え?」

 思ってもない出来事に頬をつねったが、痛みがある。現実だ。

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