第44話 11日目:野営地襲撃計画 その1
色々な事があった。
回復薬のヤバさを理解したり運営と話し合い、なんとか回復薬流通の目途を立てたり……。
双月君が、仲間になりたいと言ってきたり、彼の妹さんが吹っ切れたり――。
彼は今すぐにでも妹さんを探しに行こうとしていたが、流石に病み上がりの状態で行かせる訳にもいかない。
焦る双月君を落ち着かせ、今日はとりあえず休む事にした。
今は、寝室。
デクの中は、いくつか大きなフロアに別れている。
ここは宿泊エリアらしい。
まるでホテルみたいに、いくつかの個室が並んでいる。
俺の部屋は最初から決まっているらしい。
タボの先導に従い、一番奥の部屋に入った。
大きなベッドに落ち着いた調度品。
優しい木の壁に木の床。
落ち着いた観葉植物や、机には日記帳や羽ペンが置いてある。
ランタンもユニークな……キノコの形、いや、これは光るキノコだ。
机に置かれた小さな鉢に生えているがランタン替わりになっている。
間接照明かよ。
部屋には大きな窓が1つ……気付けば、外は暗く夜になっている。
「……時間の進み方、おかしくないか?」
「わふ?」
先ほど、運営が来ていた時はまだ窓の外には青空が広がっていたハズ……。
ああ、もうよそう、やめやめ、異世界だ、異世界。もうぜーんぶめちゃくちゃ。
ベッドメイキングはあの謎の小人達がやってくれるらしい。
「わふ」
タボは、ベッドの隣にあるハンモックに揺られている。
ごろんとへそを見せ、大きなあくび。
勝手知ったる我が家、そんな雰囲気だな。
「お前……この家に住んでいたのか?」
「……きゅーん」
タボが顔だけを俺に向けて鼻を鳴らす。
この子、完全にこっちの言葉を理解している節があるような……。
やだ、賢い……俺の犬。
部屋には、バスローブのようなもこもこの寝巻も用意されている。
俺は野宿全然出来るタイプだが、屋内の寝床は汚したくない派だ。
寝巻に着替えて、そのままベッドに倒れこむ。
……心地いい、ベッドに身体がそう蕩けそうだ……。
明日は、まず双月君ともう一度話をして……。
回復薬の密売……計画の骨子はある程度用意している……。
その為に、まずは味覚薬を……。
「いや、その前に、あの女に会わなければ」
そうだ、回復薬。
これの事情を知ってそうな女に心当たりがある……。
あの不審者……エルマ……。
「ねむ……」
俺の意識は、そこで途切れた。
◇????◇
景色が見える。
オレンジ、赤、熱。
ああ。街が燃えている。
「――」
1人の少女が俯き、焼け跡に向けて叫んでいる。
ああ、見てはいけない。見てはいけない、見てはいけない。
でも、見てしまう、見えてしまう。
それは、人間だ。真っ黒に炭化した人間。
折り重なるように、丸まった形の焼死体。
少女は叫び続ける、その喉が裂け、慟哭に血が混じってなお、叫び続ける。
夜と朝の手が繋がり、空が黒から紫、赤に代わる頃。
いつしか少女の叫びは止まっていた。
少女は無表情で、その死骸を見つめ続ける。
小さな顔には、涙の痕がずっとこびりついている。
白い肌は、煤と灰だらけ。
小さな唇は、渇いた血が張り付いて。
少女が空を見上げる。
そして、笑う。
何かの答えを、明けの明星に見つけた如く。
「――そっか」
その微笑みは、どこかで見た事がある気がした。
血に染まったような赤い瞳が、朝焼けに照らされる。
「――全部、壊せばいいんだ」
きっと、彼女は壊すのだろう。
彼女の小さな世界を理不尽に奪ったこの世界の仕組みを。
彼女はいつしか望むだろう。
神々の枷、奴隷たる人、その可能性の解放を。
彼女の名前は――。
『ぶっぶ~まだまだ好感度が足りないのでここまで~』
『はい、記憶没収~』
『女の子の秘密を勝手に覗くのはマナー違反だよ? ぱ~ぱ?』
◇11日目:デクの家にて◇
「うお!!!!! 女の子とか図々しいだろ!!!!」
ちゅん、ちゅんちゅん。
小鳥の声が窓から聞こえる。
跳ね起きたベッド、明るい陽射しが大きな窓から差し込む。
「……えっ?」
嘘だろ?
もう一夜明けたのか? さっき寝たような感覚なんじゃが……。
「ぷす~……ぷす~……」
タボの呑気な寝息……。あいつ、へそ天のまま寝てやがる……本当に犬か?
「何か、夢を見ていたような……」
ダメだ、眠りが深すぎて覚えていない。
クソ、なんで用事があるときに限ってあの不審者、出てこないんだ……。
「……まあ、いい。起きるか……」
「……わふ? わーお……」
ぱちりと目を覚ましたらしいタボ。
ごろんとハンモックを転がり、大あくび。
そのまま、すくっと床に飛び降り、背筋を伸ばし、また大あくび。
「ワーオ、タボ……」
後ろ脚がぴょーんと伸びている、可愛い。
「……よく眠れたか? タボ」
「わん!」
ちゃっちゃっちゃ。
爪を鳴らしながらタボが俺の近くへ歩み寄り、お座りをする。
彼の頭と顎をひとしきり撫で回し、立ち上がる。
さて――なんか寝た気はしないが、寝起きは驚くほどすっきりしている。
異世界生活11日目――回復薬密売業のスタートだ。
◇11日目:世界樹林 死王の蟲 第5キャンプ◇
「し、襲撃!!!!! 襲撃だ!!! 巡回中の騎士を呼べ!!」
「なんだ、何事だ!? 何が起きた!?」
「襲撃です!! 火が‼ 火が放たれています!!」
「ワイバーンだ!! 空からくるぞ!!」
天幕の中で怒声を上げるローブの男。
死王の蟲、王国と教会の大敵、まつわわぬ者達の集まり。
死霊術師や、血に酔った遍歴騎士、傭兵。
人殺しの集団達のキャンプは突如、襲撃を受けた。
「な、なんだと!? 王国の騎士か!? それとも、聖職者共か!?」
「いえ、その何者でもありません!! 黒いワイバーンが空から――」
天幕にいる2人の死霊術師の動きが止まる。
天幕に、突如1人現れた。
血なまぐさい人殺しのキャンプに似合わない――華やかさを持つ人物が。
「あ、こんにちはー!」
金のレイヤーヘア、青と銀のエクステが4本なびく華美な髪形。
神が贔屓して作った小さな顔、はっきりしたパーツ。
極上の、美少女。
露出が多い服装。
胸元だけ覆ったチューブトップに短いスカート。
細く長い脚は黒いタイツで余計にその細さが目立つ。
「「……は? 誰……?」」
「でいどりーむ事務所、所属のライバー。双月レイで~す!!」
「……こ! 殺せ!!」
「は、はい!! この、女――どこから」
死霊術師が杖を彼女に向ける、それよりも遥か速く。
「アハッ!!」
彼女が構える、二振りの刀が振るわれる。
「「え」」
2つの首、死霊術師の首が飛ぶ。
ぼとん、ぼとん。
その首は今、ようやく自分が死んだ事に気付いたらしい。
にかっと、その少女が笑う。
その笑顔は太陽に似ていた、その輝きも、時にその輝きが誰かの命を奪う事があるという点も。
「あたし、ちょっと強いかも!!!!」
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