第45話 11日目:野営地襲撃計画 その2


「それで、一晩明けた訳だが……考えは変わらないかい?」


「ああ、トモさん。いろいろ考えたっす。オレなりに。変わらねっす。オレも、アンタがやろうとしている事を手伝いたい……」


「君はVtuber、事務所に所属している有名人だ。俺のやろうとしている事は、公序良俗に反する可能性があるぞ」



 朝。

 家に湧いている泉で顔を洗い、いつのまにか小人達が洗濯してくれた服を着る。

 そうして、大広間に向かう既に、双月セツナとワイバーンがちょこんと待機していた訳だ。


「覚悟の上っす。それに、そんな事気にして動かなかった結果が……オレらを追い詰めて、攻略組っていう無茶な真似に繋がっちまった。……オレは今、オレのできる範囲で、皆の助けになる事がしたい」


 双月君の赤い目がまっすぐ俺を見つめる。



「それに……トモさん1人が危ない橋渡るのをこのまま黙ってみてる訳にはいかんでしょ」


 これ以上、断っても逆に彼を頑なにさせるだけだな……。

 なら……。


「分かった」


「!!」


 ぱあっと顔を輝かせる双月セツナ。

 ……本当に男の子なんだよな? 声がハスキーボイス気味だから男感はあるが……容姿が端麗すぎて、頭が混乱する……。


「2人でやろう。ただし、足抜けしたくなったらすぐに言う事。遠慮はなしだ。それが条件、いいかい?」


「わかりました。でも、オレ、大会事とか、こういう大事なモンを途中で投げ出す事はしないっすから」


 彼は、おそらく攻略組での失敗を挽回しようとしている……。

 少々危ういが……今、目を離す方が危険か……。


「……基本的には俺の指示に従ってもらう事になる、それでもいいか?」


「もちろんっす。勉強させてもらうっすよ、トモさん!」


 なんて顔で笑うんだ、この子は。

 これが、人望って奴か?

 なるほど有名人、エンタメの人気者って奴はどこか人たらしの部分があるのだろうな。


「……じゃあ、改めて宜しく。双月君」


「セツナでいいっすよ! トモさん! セツナで。事務所の仲間も、ダチも皆、そう呼ぶんで」


「では、セツナ君と呼ばせてもらおう。では……結成という事で」


「……!」


「我々はこれより、チームだ」


 セツナ君が、俺の言葉に背筋を伸ばして頷く。


『おお! やったな、主人! 昨日の夜、薬師殿との話し合いの練習をした甲斐があったな!!』


「ウェルウェルウェル、ダメダメダメダメダメ、そういうのは、言うのはマジでダメって」


『何を言う! 主人! 妾は今! 一安心をしている! 危なっかしい真似しかしない主人も、薬師殿の傍ならば問題なかろう! 彼のでたらめな強さは妾は目の前で見ているからな!』


 鶏サイズのワイバーンが机の上に飛び乗り、ふんすと火の鼻息を吐く。

 家具が焦げるのでやめてほしい。


「ウェル、マジでその辺にしておけし、マジで」


『照れる事はないぞ! 主人! 主人は薬師殿の……そう! 主人達の言葉で言うところの……ふぁんぼーいという奴だものな! あれだけ断られたらどうしようと半泣きで夜を越した甲斐があったじゃないか!! おかげで早起きもでき――ギャウ!!』


「は、はは、トモさん、すんません、こいつもなんか興奮してるみたいで……」



 物凄い速さでセツナ君に羽交い絞めにされたワイバーン。

 大丈夫か? 首が決まっているような……。


「……ワイバーン、大丈夫か?」


「つ、続けて下さい! 問題ないっすから」


『グァァァァァァァ、おのれ、定命の者め、妾を炎王の末だと……まあ、でも主人が元気だからよいか』


 ……大丈夫そうだ。



「俺達の目的は、”回復薬の流通”だ。これが最終目標。ここは共有出来てるね?」


「っす。”回復薬の流通”で、他のプレイヤーがこの世界の攻略をサポートするって感じっすよね!」


「ああ。その通り。ひいては――この世界の陳腐化、ゲーム化を目指すものだ」


「ゲーム化……っすか?」


「ああ。まあ、この辺の話はまたおいおいしよう。今はまず目先の仕事からだな」


「なんでもやるっすよ!! マジで! あ、でも、トモさん、その前に1個いいっすか?」


「……妹さんの事か?」


「っす。身内の事でほんと申し訳ないんすけど、トモさん。仕事の前に、あのバカ妹を探しに行っていいっすか?」


「もちろん、これはオレだけで速攻で行ってくるっす! トモさんに迷惑は……!!」



 PIPIPIPIPIPI


「……でても、いいすか?」

「どうぞ」


 セツナ君が、俺に目配せしてからスマホを机に置く。

 どうやら、スピーカーモードにしてくれているらしい。



『あ! おにい!? やっほー! 元気!? 今、電話いい!?』


 聞こえてきたのは、非常に元気そうな女性の声だ。

 ゴールデンレトリーバーとかが喋っているような……。



「……レイ! お前、今、どこで何をしてんだ、このバカ!」


『あひゃひゃひゃ!! うるさ! マジキレじゃん! ねー、おにい、なんかねー今……ロアちゃん、この人らなんだっけ? 脂肪吸引機? あ、しおうの蟲ね! あーごめん、おにい、なんかね、死王の蟲とかいう超悪い人達、退治してたら、《味覚薬》のレシピっての落としたの!』


「は?」


『これさー! おにい、欲しい?』




 ……なんか、とんでもなく愉快な電話聞こえてきたな……。






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