第43話 10日目:集い出す仲間 Vtuber双月セツナ視点

 ◇慈愛の家にて:セツナ視点◇



 気付けば、ベッドから跳ね起き、上着を着ていた。


『むえ? 主人……? どこへ?』

「悪い! ウェル! 寝ててくれ!」



 ふわふわのベッドに寝転んだままの寝ぼけワイバーンをそのままに、寝室を出て大広間に!


 高級ホテルのラウンジのような空間。

 シックなオレンジの光に包まれる広間にその人はいた。


 ソファに深く腰掛けたままの、トモムラトモヒト。


 酷く疲れた顔、大人って感じでカッケー……じゃなくて!!



「トモさん!! 今のって!!」


「お、おお、双月君、どうした? そんな慌てて」


「い、今、アンタ運営と交渉したのか!?」


「え? なんで知ってるんだ?」


「そんなのあんたの配信を見てーーあっ……」


 やべ……。つい、口が滑った。

 いや、キモくねえか? 

 同じ家にいる人の別室での様子を確認するために配信見てたとか……


「……君、寝る前も配信見てるのか?」


「え、あっ、その――」


 い、嫌だ、嫌われたくない!!


「――――プロ、やな」

「わふ」


 トモさんが感心した様子で呟く。

 シベリアンハスキーみたいな抹茶色の犬もトモさんの足元で小さく鳴く。


「え?」


「流石だ、やはりプロのVtuberになると、俺のような素人の配信などもチェックするんだな。見たかよ、運営。お前や俺のような素人がしゃしゃる必要なんかすぐになくなるさ」



 トモさんが犬を撫でながらうんうんと頷く。

 え、なんか引かれてないっぽい……?


 いや、今はそんな事より!



「あ、いや、その……いやそれより、トモさん! さっきの運営との話、回復薬の話なんすけど!」


「ああ、それも聞いてしまったか。ああ、さっきの話、君に回復薬の作り方を教えるという話だが……すまんがあれは断らせてくれ」


「……えっ?」


「だが、安心してほしい。君の願いは叶う。そう遠くない未来、君たち、攻略組に回復薬が行き渡るように手配する」


 あ……。

 オレは、トモさんのこの顔を知っている。

 大人の顔、全部背負う事を決めた人間の顔だ。


 ――行ってくるよ、刹那、零。


 死んだ兄さんと、同じ顔だった。



 気付けば、俺は言葉を放っていた。


「オレも、やる」


「……ん?」


「トモさん、同盟……いや、オレを仲間にして下さい」


「え?」


「オレもやりたいっす。回復薬の密売」



 この人だけに、頼ってちゃ駄目だ。

 今、この人だけに全部を任せたら駄目だ!



「やりましょう! トモさん、オレらで! この世界を、ハッピーに変えてやりましょうや!!」


「……なんて?」


「配信、全部見てたっす! トモさんが1番回復薬とかに詳しいって事っすよね!」


「え、いや……というよりもあれは俺のせいという感じだが……」


「違うっすよ! トモさんは設定書いただけでしょ!? あれでこの世界がめちゃくちゃなのがトモさんのせいにはならないっすよ!」


 何言ってんだ!? この人!

 マジで真面目すぎねえ!?


「……やめておけ。双月セツナ」


「ッ!」



「回復薬の密売。俺の道は茨の道になる。俺のやろうとしている事はきっとこの世界に歓迎されない。君のような日の光の下を歩くべき人間がやる事じゃない」


「ぼふっ……」


 うお。

 トモさん、やべ、マジでオーラあるわ……。

 わんこもなんか目つきが鋭くなってるし……。


 この2人、正確には1人と1匹、カッケー……。



「それに、君はおそらく回復薬の副作用に犯されている。俺の事を評価してくれているのはおそらくその薬のーー」


「オレ、回復薬飲む前から、トモさんのファンっす!!」


「…………なんで????」


 トモさんが固まった。

 やっべ、絶対引かれた! ああ、でも、もういくしかねえ!


「ムカデ配信っす!! あの配信、マジで痺れたんで!」


 言っちまった、言っちまった! 言っちまった!!


 もう後戻り出来ねえぞ!

 双月セツナ! 事務所のオーディションの時、思い出せ!


「オレ、双月セツナはアンタの仲間になる事を希望します! 今までかっこ悪いとこしか見せてねえけど! こう見えて、かなり強いっすよ!」


「……具体的に、出来る事は?」


「戦闘、あとワイバーンに乗れるっす! 加えて言えば、職業は勇者とドラゴンナイト! なんか鍛えれば竜の力がどうのこうのとかっす!」


「…………」


「飛行能力!! 密売で空飛べるのは、激アドじゃないすか!?」


「……危険だぞ?」


「それはトモさんも一緒っすよ!」


「……一晩考える時間をくれ。それで決めていいかい?」


「うっす! なんでもやるっすよ!」


「わかった、やる気は嬉しいよ、素直に。まあ、今日はもう休もう、お互い色々な事がありすぎた」


「分かりました、分かりました。いい返事を期待してるっすよ」


「君、結構……強引な奴だな」


「まあね〜! 配信者なんて少し図々しいくらいじゃないとやってられないすから!」


「ふ、そうか」


 トモさんが少し笑う。

 あ、この人普通に笑うとなんかーー。


 その時だった。


 ピピパパパバピピ!


 配信確認用のスマホ型端末。

 初めから持っていたソレが鳴る。


 誰だ? こんな時に。

 着信者を一瞬、確認してーー。


「え!? と、トモさん、電話出てもいいっすか?」


「あ、ああ、もちろん。……電話とかあるのか……」



 トモさんの許可を貰って電話に出る。



《あ、おにぃ。やっほ~。レイだよ~!》


「レイ!? お前、どうして!?」


 電話の向こうから、妹の声が聞こえた。

 この世界に来て、ショックで何も話せなくなってた妹とは思えない明るい声。



《ごめーん! 家から出て、ぼったくりタクシーしてたら、なんか殺人容疑かけられちゃった! やばくない?? もうワールドニュースで見てる!?》


「ーーは?」


 まだ運営のニュースは見てない!

 なんで、そんなことに!?


《んでね~考えたの!  おにいさあ、なんか回復薬がどうのこうの言ってたじゃん? あれ、あたし達で見つけてあげるよ!》



 ぼぼぼぼ。

 電話の向こう側から、強い風の音がする。

 外にいるのか!?


「は?」


《こっちの世界で出来た友達がそういうの詳しくてさ〜! なんかそういうレシピを隠し持ってる悪党がいるらしいのね! 死の王の……むし? なんかそういうの!》



 待て待て待て待て、なんか嫌な予感がする。

 この世界に来て、怯えていた妹じゃない。


 この感じは……頭がおかしい配信者ランキング3年連続No.1女性配信者。


《それ、全部あたし達で退治してくる〜!》



 双月レイがいつもの、配信の時と同じテンションで笑っている。



「ーーはっ? ま、待て! レイ!」


《待ちませーん! 最初にあたしを1人にしたのはおにいで〜す! もう言う事聞きませ〜ん! べろべろばー!》


「馬鹿! お前!!」ブツッ!!



 電話が、切れた。


 ……終わってるだろ、オレの妹。

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