第38話 友村の覚悟

「トモさん、つ、続けてもいいっすか?」


「あ、ああ……」


 ――思い出した。思い出してきた。

 俺がシナリオライターとして設定した、薬師と回復薬の関係を。


 セツナの話をこの後も、聞き続ける。

 話の内容は”この世界の回復手段の仕組みと謎”



「この世界にはゲームのように回復薬が売ってないんす。作れる人間もいなくて……」


 ふむ。俺が回復薬を違法薬物であると設定したからだな。

 これは俺のせいだ。



「友達のライバーから聞いたんすけど、この世界の法律とかって、教会が作ってるらしくて。その教会の法律では”回復薬は神の教えに反する悪魔の薬”で使用も製造も禁止になってるとか」


 ~~~~

 の情報の一部が更新されます・

 ・あなたはウキウキで設定を考えた

《回復薬が禁じられてる理由は~実は教会が治癒術という奇跡を独占して世界の管理を円滑に進めるためにしたろ》

 ~~~~


 ふむ。俺がそういう設定にしたからな。

 要は俺のせいだ。


「その、一応、教会でも治癒術っていうのを受けられるんですけど……費用も高いし、時間もかかる、傷だって完全には治らない……ゲームの回復魔法とは勝手がだいぶ違って……」


 ~~~~

 の情報の一部が更新されます・

 ・あなたはノリノリで頭を回転させた

《教会の治癒術はしょぼい設定にしたろ、理由は……十二神教の神は実は人間を恐れているからっと、やっぱ神は性格がカスじゃないとね~》

 ~~~~


 ああ、これも俺の設定だな。

 つまり、俺のせいだ。


 ……この世界のクソゲー成分、ほとんど、俺じゃね??


「でも、トモさんの回復薬があれば……オレの傷を一瞬で治すあの薬を皆が持ってれば……もう1回、攻略を……皆もまた挑戦できるかもって……」



 セツナの声の勢いが消えていく。

 自分の言葉にいろいろな無理があるのを彼自身も理解してはいるのだろう。


「いや、皆、じゃないっすね。オレ1人でも、その回復薬さえあれば、絶対に星の塔を攻略してみせます。それがオレのやるべきことっすから」



 死の恐怖とは重く濃いものだ。


 だがそれでも彼は止まらない。

 ただ、真面目な奴なのだろう。死の恐怖を知ってなお、未だ挑む事をやめないほどに。


 彼は彼のやるべき事をやろうとしている。

 この命懸けの異世界サバイバルの中、死にかけてなお、逃げる事もせずに。


 眩しいな。俺にはない善良さと純粋さ。

 この世界に来た時から、俺は俺が生き残る事だけを考えてきたと言うのに。


「双月くん、君、年齢は?」


「あ、えっと、19っす」


「なるほど……立派だな、君は」



 俺は、気付いてしまった。

 回復薬の存在は、単なる回復手段に収まらない事を。



「君は正しく、そして聡明だ」


「……え」


「まさに、俺の回復薬、それこそがこの世界の攻略の鍵を握るだろう」


「と、トモさん……?」


「少し、考えたい事がある。今日はもう休もう」


「あ、か、考えてくれるんすか?」


「もちろん。――デク、双月君達を寝室へ案内してくれ」


『了解、マイマスター』


 小人達が現れる。

 彼らは俺の姿を一瞥した後、双月君とワイバーンを連れて大広間を出た。


「わふ……」


 ぺちょ。

 静かにタボが濡れた鼻先を俺の手に押し付ける。


「……最初は、俺とお前だけ生き残れば良い、という感じだったんだけどな」


「わん」


「なあ、タボ。俺はロクでもない奴だよ。知らなかったんだ、こんな状況になっても他人の為に命懸けで何かを成し遂げようとする奴がいるなんて」


「わんわん」


「すまん、これから少し、面倒な事をする。それでもまだ一緒にいてくれるか?」


「わふ!!」


 チャチャチャ。

 タボがくるくる回って、一声吠える。

 大理石の床に彼の爪の音が響いた。



「双月セツナ、か。Vtuber、きちんと触れておくべきだったな。食わず嫌いはよくない」



 やるべき事は理解した。

 それに必要な手札も全て俺の手のひらの中に。


 後必要なものは、覚悟だけだ。


「配信で見ているんだろう? 今、ここで俺を見ている元の世界の人達。君達にここで宣言しておこう、俺のせいだ」


「わふ?」


 独り言。

 しかし、双月君の言葉や初日のワールドニュースから考えて今、この瞬間も俺の行動は配信されている。


 俺の言葉は、世界中の人間に広まっていく。



「俺の行動は配信されているんだろう? これまでもずっと、君達に見られていた訳だ。すまない、この世界がクソな理由は俺のせいだ。双月セツナ君の話、回復薬については全部、俺が設定した」



 さようなら、俺の夢。

 俺はもう元の世界に帰っても作家にはなれないだろう。


 俺の創作物が多くの人を殺した。

 その事実は、配信を通して世界中に広まった。



「どんな人間が見ているか分からない。だが、嘘を言いたくはない、誤魔化しもしたくない。俺の創作が人を傷つけたのは全て俺に責任がある」



 今は、夢よりもやるべき事がある。


 俺よりも年下で、俺よりも余程怖い思いをした男。

 彼がそれでもまだ諦めていないのなら。



「真面目な奴がバカを見る世界は嫌いだ。俺も、俺の成すべき事を成そうと思う」



 こんな時、主人公ならどうする?

 それはもう双月セツナが行動で示してくれた。


 とにかく、動くのだ。

 自分に出来る事を、やるのだ。



「責任は取る、この世界をクソゲーにしてしまった責任を。今、ここで」



 そして。



「チュートリアル、いや、運営。お前も見ているんだろう?」



 死ぬかもしれない。

 だがやるしかない。

 俺は俺に出来る事をやってしまおう。


「……」

「わん!」


 犬が一緒にいる。

 そうだ、彼の飼い主としてもいい加減な事は出来ない。



「お前に聞きたい事がある」



 そして、俺はその言葉を告げる。

 もう、戻る事は出来ない。


 俺は気付いてしまった。


 


 それはあの洗脳作用とは別の所にある。

 ならば、あいつとの接触は絶対に必要だ。



 この世界を創った馬鹿野郎。




「――問い合わせだ」



 ~~~~

 運営が貴方の問い合わせに応答しました

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