第26話 ゴブリン殺し、ゴブリン殺し、ゴブリン殺し その2
「つきはないてそらをゆく♪ もりはしずかにねむってる♪」
「わおーン」
「かりうどはあるきつづける、しずかなよるをふみしめて」
「ワオ―ン」
静かに、歌にあわせてタボが吠える。
なんだかちょっと楽しくなってきたぞ。
昔の人が田植え唄などで、唄いながら作業する理由がわかった気がする。
大事なのは結局、ノリと勢いと無意識で動く身体という訳だ。
ゴブリンの血の匂い、彼らが見せる恐怖の表情。
……素晴らしい。
ゴブリンを実際に殺した事のある作家はあまりいないんじゃないのか?
これは、本当に。
「ピンときた。小説執筆に役立ちそうた……」
「ワォオォオォオォン!!」
ひときわ高いタボの遠吠え。
ふと、気付く。
もう殺すべきゴブリンはいない。
振り返ると、血の匂い。
麻痺していたゴブリンは皆、死んでいる。
目の前には道が続いている。
ヒユウウウ、風の音だ。
道の向こうから聞こえる。
広い空間がありそうだ。
歌を歌いながら進む。
「もりのおくでねむるけもの♪ つきがそっとみまもってる」
「だけどかぜにかおりが♪ どくのかおりただよう♪」
「かおりしずかに♪ いのちをそっとうばってく♪」
念のため、気化毒を再使用しておくか。
ゴキブリって見えない所にもたくさんいるからな。
「毒手解放――スキル複合使用、”麻痺気化毒”」
進む。
すると、予想通りひらけた空間に出た。
石で出来た広間、明らかに人工物の空間だ。
「あ……」
『主人!!!!」
うお!?
ヒトがいる!
ゴブリンの群れに囲まれ、顔を赤く腫らして、服も裂かれて……。
「……2アウトって所か?」
「わんわん!」
どうやら、麻痺気化毒は効いているらしい。
広間にいるゴブリン達は皆、麻痺していた。
『貴公、我が主人はあそこだ!』
「OKOK! よし、こんな陰気臭い所早くとんずらするぞ!」
スタボロになっちゃいるが……セーフ! 生きてそうだ!
俺は、その人に駆け寄って――。
『ま、て……ありえない、ありえない、ありえない!!!!!!』
「あ?」
声のする方向。
広間の一段高い場所に玉座がある。
その玉座の足元に倒れている奴、うわ、マジかよ。
なんか翼生えてる2メートルくらいありそうな女がいる。
青い肌に、ルビーのような瞳……。
なるほど人外娘って奴か……。
流石異世界……。あらゆる性癖に対応してくるな。
一体どこのアホシナリオライターが作った種族だ?
『お前、何をした……この、麻痺毒……! ありえない、このフランシス以外に!! 陛下の作りたもうた至高の毒を模倣出来るなど、あってはならない!! いや、それ以上に、私の耐性を貫く毒……!? あああ、寝取られるうううう!! この、卑しい淫売男があああ! 私の体が目的かあああ』
目を見開き、金切り声を上げてもがく悪魔。
……なんかめんどくさそうな反応だな。
「グルルルル!」
タボが牙をむきだして俺の前に。
「そ、いつ……、そいつが、ゴブリンを……」
力なく呟くボロボロの人。
声が掠れて、女性か男性か分からないな。
まあ、女性だろ。
『主人!』
ワイバーンが薬師のかばんから飛び出す。
とことこと鶏みたいな走り方で、ボロボロの主人さんの元へ。
にしても主人さん……。
華奢な身体に露出の高い服装だな。……。
黒いジャケットにシャツまではいいが……ホットパンツというのか?
白く長い脚はまるで陶磁器みたいだ。
目に毒だな。
だが、まずい。
腕や、足首が変な方向に曲がっている。
所々、露出している部分が青紫に腫れてる。
ゴブリンに囲まれながら、この負傷状態。
かなりやばめの状況だったわけだ。
ギリギリR18展開は防げたか。
「……だ、誰……」
「薬師だ。Vtuber殿。今はいい、寝ててくれ」
「……うっ……」
『主人!?』
女の子Vtuberさんが目を瞑る。
気絶している……
にしてもこの子、少し肌出すぎじゃないか?
Vtuber、あまり詳しくないがこんな感じなのか?
少年達の性癖が歪むぞ。
まあ、大体ここで何が起きたかは分かった。
「ゴブリンのボスは、お前か?」
俺は、倒れているような悪魔みたいな奴に問いかける。
『だとしたら、どうする……? ああ、陛下、陛下、どうかお導き下さい。愛しき陛下、愛しき陛下よ……あなたの毒の加護、貴方の愛で、貴方以外の毒をどうか……』
「ん?」
気付けば、悪魔の女の周囲に剣が展開されていた。
魔術って奴か!? まずい!?
俺が攻撃を警戒して。
『陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下、ああ、違う!! 私は陛下以外の毒に侵される事などあり得ない!! ご照覧下さい! 陛下ァ! フランシスの愛を!!』
ずぐっ!!
空中に展開されて剣が一斉に倒れた悪魔の突き刺さる。
「え、ええ……?」
こ、こいつ何をして。
なんで、自分に剣を刺した……?
みるみるうちに血が溢れて……。
『瀉血瀉血瀉血瀉血瀉血ゥ!!』
言ってるうちに翼の生えた女が立ち上がる。
マジか。こいつ麻痺毒を……。
血を抜いて、解毒した……??
嘘だろ、麻痺毒だぞ!? 血関係あるのか?
『あ、あはははは、あははははっはァ……あはァ……』
翼の生えた女が、ゆっくり、ゆっくり乱れた髪を整える。
脂汗の浮いた顔をぬぐい、深紅の目を俺に向けて。
『フウウウウウウウウウ……ハァ……これは、これは、失礼を……歓迎するよ、客人殿……』
からららん。
悪魔女が持っている香炉を震わせる。
お?
これは……指先が少し痺れ、て。
~~~~
毒解析Ⅰ 発動
麻痺毒を受けた
~~~~
こりゃまさか……こいつも毒を……。
いかん、身体の力が抜ける。
クソ、毒喰らいの適応に時間がかかっているのか。
『動けないでしょう? あはは……そう、私こそが、陛下の毒を扱えるんだ、私こそが、陛下を見ている。勤勉にひたすらにただままにまじめに……フゥ~~~~~~~、落ち着いた……ァ、ああ……陛下、陛下陛下陛下……貴女の愛が、私を偽の毒から救ってくださったのですね……』
翼をばさり。
女が、笑って。
『私は、厄王軍”福音将軍”が一角、勤勉のフランシス。どうぞ、お見知りおきを……お客人』
ボスキャラっぽいな、こいつ。
さて――。
『歓迎しましょう、私の野営地へようこそ』
殺し方を考えないと……。
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