第25話 ゴブリン殺し、ゴブリン殺し、ゴブリン殺し
◇3日目:毒おじ視点、少し前◇
ゴブリンの巣っぽい洞窟を見つけた。
とりあえず初手で気化毒を流し込む。
ワイバーンが何をしているんだ!?
と騒いでいるが、まあ問題ない。
致死性の毒ではなく、スキル”麻痺毒”を使用。
ワイバーンに聞いた所、主人とやらはかなり強いらしい。
麻痺毒で死ぬ事はないだろう。
大毒使いの効果により、かなりの量の気化毒を流し込める。
洞窟のような密閉空間で、あんな化け物に囲まれるなんて冗談じゃない。
ガチ異世界だぞ。
まともに戦っていられるか。
しばらく、気化毒を流し込んだのち、洞窟アタックスタート。
「わふ」
『ああ……主人、妾は助けを求める相手を間違えたかもしれん……恐ろしい……、貴公は恐ろしい人間だ……』
ワイバーンが肩でめそめそと泣き始める。
にしてもこいつ、俺の毒が効いた様子はないな。
『妾は炎王閣下の子である! 炎の加護が穢れたる毒を寄せ付けぬのだだだだだだ、あれ、身体が痺れ……』
「おっと」
普通にこいつも麻痺毒を喰らってしまった。
仕方ないので、薬師のカバンに突っ込んでおく。
顔だけ出すようにしておけば、窒息したりもしないだろう。
『しゅまぬ、きひょう……』
「良いってことよ、むしろすまんな。……にしても本当にこの薬師職業、仲間との連携無理だな……』
「わふ」
改めて薬師職と毒手スキルの多人数プレイの向いてなさに驚く。
いや、薬師というよりかは、毒手が悪いのか?
まるで……最初から1人で多人数を相手にする事を前提とした力みたいだ。
それにしても、洞窟は暗い……。
ところどころ松明があるとは言え、普通に暗い。
「わふ!」
こんな時に頼もしいのが、タボだ。
俺と違って意気揚々と洞窟を進んでくれる。
だが、暗い。
昔から、暗い場所は苦手だ。
歌でごまかすか。
そのまま洞窟を歌いながら進む。すると――。
「GOB……B……」
「GOB……」
おお、通路のいたる所で痙攣しながら倒れているゴブリンがいる。
バルサン焚いた後のゴキブリみたいだ。
よしよし、気化毒。
その効果、まずは良し、だな。
「わふ……?」
タボが、痙攣しているゴブリン達を見下ろす。
くるり、俺に向けて首を傾げる。
彼の言葉はわからないが、何を言いたいのかは分かる。
殺すかどうかの判断を求めているのだ。
無力化しているし、放っておいてもいいか。
一瞬そう思ったが、その考えはすぐに変わった。
ある部屋があった。
痙攣しているゴブリン達を辿っていくと、その部屋から出てきたようだ。
「木の扉……この洞穴、自然物ではないのか?」
開けっ放しの扉、ゴブリン達を避けながらその部屋を覗くと――。
「グルルル……キューン……」
「なるほどね……」
死臭。
そこには見るも無残な最悪の光景が広がっていた。
積まれた死体の山、骨になっている者や腐っている者……。
かろうじてそれが、人間だというのがわかる。
石の台座の上には、女性の死体。
汚れていてわかりにくいが、西洋のシスター服に似ている……。
よほど苦しい目にあったのだろうか。
血と汚物にまみれたその死に顔は……俺には言い表せないものだ。
「……この生き物、ダメだわ」
死体を見たら、わかる。
ゴブリン。
こいつらは人を楽しんで殺している。
はい、終わりです。終わり終わり。
「やっぱ、皆殺すかァ~」
「わんわん!」
「あ、待て待て、タボ、ばっちいからやめなさい。お前の牙が汚れるから」
「わふ?」
早速ゴブリンの頭をかみ砕こうとするタボを止める。
こういう汚れ仕事をペットにさせる気はない。
「そうそう、いい子だ。こんなモン噛んだらびょーきになるよ」
倒れているゴブリンの息の音をかたっぱしから止めていく。
最初の1匹は、毒手で垂らした濃度の高い毒液で。
「GOBBBBBBB……」
垂れる毒液、怯える声を挙げるゴブリン。
もがいて逃げようとするが動けない。
〜〜〜〜
毒の高揚発動
精神的にテンション上昇
〜〜〜〜
無抵抗の敵を殺すのに少しは良心が痛むかと思ったが、やってみると何も感じない。
毒液で顔が完全に埋まると動かなくなった。
うーん。
ちょっと時間がかかりすぎるな、これ。
なので、次からはシンプルに首の骨を踏みつぶす事にした。
ぼき、ぽきん、ぱきん。
思い切り体重を乗せ、勢い良く厚いブーツの底では踏み潰す。
結構、嫌な感触だ……。
だが……。
「なるほど、生き物の骨とは結構折れにくいんだな」
いい経験にはなった。
無意識のうちに手加減をしてしまう事も理解した。
ふと思う。
人間が道具を加工し、武器を編み出すのも。
武器が先鋭化されるにつれ、より遠くから敵を殺すように進化していくのも。
「意外と皆、この感触が嫌いなのかもな」
「GOB!?」
ぺきょッ。
『……怖』
「何か言ったか、ワイバーン」
『……いや、なんでも……だが、貴公。その冷酷さ、やはり……』
ゴブリンが多い。
洞窟を進むにつれ、麻痺しているゴブリンはどんどん多くなる。
気化毒を使っていなかった場合、この数のゴブリンを相手にする必要があったわけだ。
「絶対死ぬだろ、これ」
「わふ」
首の骨を踏み折るのも飽きてきた所だ。
ゴブリン達がマヒして落とした武器を拝借、剣、短い槍、棍棒。
そのどれもが、先端に悪臭のする汚物がこびりついてる。
「なるほど、お前らも毒を使うわけだ」
「GOB……ギャッ!?」
槍で首を刺す、剣で喉を刺す、こん棒で頭を潰す。
異世界ファンタジーというものはなかなかにハードだ。
現代と比べて命が軽く、また、命との距離が近い。
淡々とゴブリンを処理していく。
毒の高揚のおかげか?
生命を処理していく忌避感が薄れていく。
だが、これは良い経験だ。
小説に活かせるかもしれない。
「♪♪♪♪♪」
「ワフ! ーーワオオオオオオ……」
気付けば鼻歌を歌っていた。
タボが楽しそうに鳴き声で反応してくれる。
いや、にしても暗いな。
陰惨な場所で陰惨な事をしてると頭がおかしくなりそうだ。
いつしか、俺は歌いだす。
即興で考えた歌詞、どこかで聞いた童謡のメロデイ。
小説を書く時と同じだ。
イメージが頭に浮かぶ。
ゴブリンを、怪物を1人狩り続ける独りぼっちの狩人の姿。
暗い森で、獲物を狩り続けるその姿。
不思議な事に歌ってたらもう何も怖くなかった。
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